*甘 *微シリアス Go→
「あれ、今日は早かったね」
「済みません何で勝手に部屋入ってるんですか」
「…彼氏の特権じゃない?」
「そんな特権は存在しません」
「えーケチー」
「ケチでも何でも不法侵入には変わりないですから」
ただいまー、といつも通り返ってくる筈も無い挨拶を口に自室の扉を開けた、その目に飛び込んだのは寝癖と猫っ毛でふわふわに跳ねた髪と間延びしたおかえりだった。 さも当然のように寛ぐそいつは一応恋人である。 しかしながら入室を許可した覚えは無く、大迷惑だ。
「ほらさっさと居なくなって下さい」
「その言い方凄く傷付くよ」
「じゃあ早くお帰りになって下さい」
「………」
「……ご飯食べたら帰って下さいね」
「うん、分かった」
チッ、と思わず舌打ちが出た。 満足気にニコニコするコイツが憎い。 晩飯食べたきゃ金寄越せ!…と、本来なら言いたかったところだが、何だかんだ言っておかえりとその言葉に迎えられるのは暖かくて、嬉しい。 今回は大目に見てやる事にして、ジュネスで購入した野菜やらを放り込んで炒め物を作。ついでにキャベツも刻んでいれてやった。 無いと、ねちねち文句を言われるような気がした。 味噌汁と其れを並べて、元々簡単に済ませようと思っていた為に大した材料が無い。 だからおかずはたったの二品、それから白米になってしまったけど彼は美味しそう、とご満悦だったので良しとする。
「相変わらず料理は美味いね」
「料理は、ってなんですか。放り出しますよ」
「美人だし料理も美味いし最高だね」
「凄く棒読みですけど…まあ、良いです」
「あはは、ごめんごめん」
「許さない」
「えー!」
「静かに食べてください」
一足先に(と言っても元々の量が少なかっただけなんだけど)食べ終わったので、片付けを済ませた。 台所から居間に戻ると足立さんが転がっていて、もう食べ終わったらしかった。
「踏み潰しますよ」
「良いじゃない、ちょっとくらいっぐあ!」
「吐かないでくださいね」
「きっ…君が、踏まなければっ!…出さな、いし…!」
「貴方が起き上がれば踏みません」
「う、…分かった、起き上がるから!」
「はい」
「…はあ、本当出るかと思った」
「やめて下さいよ汚らしい」
「君の所為だよ!?」
彼の食器も台所に運んで、洗う。 非難の声は無視して片付けに取り掛かった。 洗い終えた食器は水切り籠に置く。 手が少しだけ荒れている。洗剤が悪いのかな、なんて一人ごちに溜息を吐いた。
「なまえちゃーん」
「はいー?」
「そろそろ帰るね」
「あ、今日は早いですね」
「いつも遅いみたいに」
「のろのろ帰るじゃないですか」
「…今日は偶々だよ!」
「逆にしてください」
「君ってどうしてそう天の邪鬼って言うか…そこも魅力だけどねえ」
「……帰るんでしょう。さよなら」
「照れちゃって。…御馳走様、美味しかったよ」
「煩い黙れ。いいえ、お構いしませんでした」
「おやすみ」
足立のだらりとだらしなく下がった手が私の手を掴み、頬には唇が触れた。 何なんだ、この大人は。普段は、情けないくらいなのに、こう言うときだけ。 暖かい体温に包まれて、何と無く安心した。 頬に触る唇と、髪の毛がくすぐったい。
「…おやすみなさい」
離れた体温は、扉の向こうに消えた。
裏切る為に裏切る手を (またね、その一言が足りない)
____________________title.空想アリア様
シリーズ第二弾。 家庭教師はいつ続きを書くの? そのうちー。
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