*シリアス *黒足立 Go→
「足立透!」
少女は大きく深く吸った息を、慣れない言葉と共に吐き出した。 無機質な空間に広がる真っ赤な空に反響して、その下で寝転がる男を起こした。 足立、透。連続殺人犯。八十稲羽署で働く、一刑事――だった。 殺人犯を追う捜査に携わりながら、今までのうのうと生きて来たのだ。 感情の浮かばない瞳を向け、薄らと笑みを零した。 愛想笑いにも似た其れに、皆が知っている足立は存在しない。 足立はゆっくりと立ち上がると、まるで友人を迎えるような軽さで、喋る。
「やあ。遅かった…いや、早かったのかな。それにしても、良く此処まで来られたね」
「ふざけ、ないで」
みょうじの一言が、空気を裂く。 許してはならない、足立は罪の無い―――少なくとも死に値しない―――人物を二人も、殺害したのだ。 何食わぬ顔でその罪を他人に被せ、嘲笑った。 こんな人だっただなんて。そう思いながらも、本心を見抜けなかった自分に苛立ちが募る。何で。どうして。 訊きたい事は、山ほどある。
「ははは、やだな。ふざけてなんて無いよ。…僕はいつだって真面目だからね」
「この…ッ」
ぎり、と。強く噛み締めた奥歯が音を立てた。 見知った人物は其処に居るのに、その中に知った部分を見出す事が出来ない。 “これ”は、ただの、殺人犯なのだ。 許す道理が、何処に有るだろうか。 手の中で、鉈が軋む。其れを握る掌が、無意識に汗ばむ。 これで、彼を、傷付けるのか。恐ろしい、そんな感情は無くただ――悲しかった。 軽快な笑い声に、吐き気がする。
「ねえ、なまえちゃん」
「気安く、呼ばないで」
「酷いな。…あんなに嬉しそうにしてたのに」
「黙れ!!…そんな事、忘れた」
「…そっか……そんな泣きそうな顔するなら、言わなきゃ良いのに」
「煩い…もう、喋るな」
お願いだから。 震える声に、嫌気が差す。 これ以上、何も聞きたくない。 固めた決意が、壊れてしまう。 今までずっと、憎んできた犯人。 会えば殺意が抑えられるかすら、分からなかった。
それなのに。
今、対面したら、どうだろう。 憎くて仕方無いのに同じ位苦しくて悲しい。 殺したいはずだったのに。 みょうじの背後には、不安そうに様子を窺う後輩と同級生が立っている。 そうだ、これは自分だけの問題じゃない。 ―――やらなければ。しっかり、しなければ。 彼を、此処から出せるのは、自分たちだけなのだ。
「大丈夫」
優しく微笑む殺人犯は、銃口を、照準を合わせた。
「僕、君の事大嫌いだから」
だからちゃんと、殺す気でおいで。
持て余す矛盾だらけの恋情 (私は大好きでしたよ、足立さん)
___________________title.空想アリア
わーお在り来たりでサーセン。 足立さんの言葉が本心かはご想像にお任せしますぞ。
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