あとち。 | ナノ

マヨナカヒーロー









*シリアス
*ほのぼの
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夜中。
私は夜になるとどうしようも無く不安になって、涙が止まらなくなって、色々な事を考えては一人で惨めな気持ちになる。例えば学校だとか、夜とは言え一人じゃないとかならそれは違って、笑っていられる。でも一人になるとどうしても余計な事を考えてしまって、それが良い事だとは決して思わないけれど、次から次へと連鎖する様に思考が駆け巡る。今日も、そうだった。不安のはけ口が無いから、こうして泣くしかない。最初はただ、ストレスの発散に時々悲しい事を思い浮かべて泣いていただけだった。涙と一緒にストレスが流れ出て、それを定期的に行わないと不自然なくらいにイライラする。だから私も、それを義務にしていた。それがまさかこんな事になるとは思わなかったけれど。大した事じゃない。だから周囲には縋れない。どうしようも無い劣等感と絶望感に、沈んでいく。テレビに入って本当の自分と向き合ってもこれだから、笑うしかない。どうしてこんなに弱いんだろう。零れた溜め息に対する相槌は無い。一人きりだ。
傍らに置かれた携帯を取って、開いた。真っ暗な部屋だったから、少しだけ目が眩んだ。ちかちかする。数回瞬きを繰り返して、改めて画面を見た。カチ、カチ。一人きりの部屋に、鼻を啜る以外の機械的な音が加わった。開いた画面は電話帳。あ、い、う、え…あんまり登録されていない電話帳の中からは行、その唯一並んだ名前を選択した。時刻は既に3時を回っている発信ボタンを押そうとして、迷った。こんな時間に、きっと迷惑だ。寂しくて縋るなんて都合が良過ぎる。電源ボタンを押して、待ち受けを戻した。閉じた携帯はまた、枕の傍らに置かれる。もう寝よう。明日は休みだけど、ごろごろしていられない。横たわって、目を閉じた。途端に、携帯からメロディが流れ出した。軽快な音楽と、その歌詞。開いて見れば先程、正に私が電話を掛けようとしていた人物からの電話だった。表示された名前は、花村陽介。急いで起き上がって、壁を背に、寄りかかる。一息吐いてから、携帯を耳に押し当ててゆっくりとボタンを押した。


「もし、もし?」

「あ、みょうじ…わり、起こしたか?」

「ううん、大丈夫…起きてたから。どうしたの?」

「え?、いや何つーかその…」


花村は困った様に声で、どもる。こんな時間に、電話をしてくるなんて珍しい。花村は私が一番気を許している友人だけど、こんな事は一度も無かった。だからこそ、余計に驚きで一杯で。声は震えていないだろうか。掠れていないだろうか。鼻声じゃないか。さっきまで泣いていたから、少しだけ心配になった。あー、とかうー、とか意味を成さない言葉を幾らか紡いだ後、花村は意を決した様に、あのな、と切り出した。どく、と無意味に心臓が跳ねる。


「…何か、みょうじが泣いてる気がして」

「え…」

「分かんねーけど、何かそんな気がしてもしも本当にそうだったら、と思ったら放って置けないと思って…そんで、電話した。そんだけなんだ、夜中にごめんな」

「う、ううん…あの、ね花村」

「なんだ?」

「もうちょっと話していたい。…駄目かな」

「…良いぜ、俺で良ければ」

「あはは、花村が良いんだよ…私は。…ありがとうね」

「え?お、おう、良いって全然」


声が震える。どうして、私が泣いてるって分かったのかな。放って置けない、って。頼っていいの?縋っていいの?ねえ、花村。今ね、どうしようもなく嬉しいんだ。こんなに真っ暗で静かな夜なのに、花村が側に居てくれる。私を助けに来てくれた。嬉しくて信じられない思いで一杯で、涙が滲んでは頬を伝った。いつしか鳴咽が漏れて、電話越しの花村が焦った声を出す。私、悲しいから泣いてるんじゃないよ。嬉し泣きなんだよ、だからね、大丈夫。焦った様子が面白くて思わず、笑いが次いだ。







マヨナカヒーロー
(あなたは私を笑顔にする"魔術師")








ネタが察しの良い人にはバレそうな話だなあ…(笑)






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