*シリアス *灰色足立 Go→
あなたは狂ったように笑って、世の中クソだの何だのと言うけれど。 私の世界は確かに、あなたで彩られていた。
私の世界は輝いていた
綺麗な世界は理想で、でも理想と言うのはなかなか叶わないもので。 彼が私に銃口を向けて居るのも、同じ事なんじゃないかと思う。 狂気的な笑みはぞっとする程恐ろしくて、歪んだ口元に憎悪を感じた。 知らなかったのだ。彼に、足立さんにこんな一面が有ることを。 それは云わば私が彼の本質を見ていなかったと言う事で有り、悔しい反面それを見せてくれる程に好かれては居なかったのだと落胆した。
好きだよ、と。 紡がれた愛の言葉も全て、偽りだったのだろうか。陽気な声も、笑顔も、全て全部が、偽りで覆われていたのだろうか。 本音を告げる程好かれていなかったのでは無く、元々、そう言う感情が存在していなかったのかも知れない。 私の一方通行でしか無くて、彼はそんな私を利用していたのかも知れない。 振り返れば浮かぶものはそんな事ばかりで、何だ薄々気付いていたのかも、なんて思った。
「君もすっかり騙されちゃってさ。…騙してるこっちが不安なるくらい」
そうだ、私はあなたが大好きだった。
「何が有っても。僕がどんな人間でも。」
他の誰でもない、あなたを好きになった。
「絶対離れない…だっけ。本気だった?」
あなただったから、好きになった。
「…少しだけさ、それなら良いかな、とも思ったんだけど」
結局私はあなたが犯人だと知っても、好きだって気持ちは変わらなかった。 それが憎たらしいような、嬉しいような。 あなたの気持ちも、変わってなかった。 私はあなたを変えるだけの人間には、なれなかったみたい。 はあ、と盛大な溜め息が聞こえた。
「でも、やっぱり駄目だ。」
向いた背中が、俯く。 暫く、私たちの間には沈黙が降りた。何が駄目なのか。どうして駄目なのか。 もう一度、今度は薄らと溜め息が響く。
「ねえ」
「…何、ですか」
「今から言う事。…全部独り言だから、黙っててよ。でさ、終わったら君、ちゃんと帰って…今度は月森くんたちとおいで」
「……は、ぁ」
嫌ですと答える訳にもいかず、やや曖昧な返答を零した。 予告される独り言と言うのもなかなか良く分からない。けれど、取り敢えず口を噤んで耳を傾けた。
「…正直、君を巻き込むだけの勇気は無かったよ、僕にはさ。テレビに落としただけとは言え…殺す事は出来るのにね。君が何が有っても僕を好きで居る、なんて言うから。最初は可笑しくて堪らなかったよ。馬鹿だな、ってね、それだけ」
くつくつ、と堪えるような笑いが彼の喉奥から漏れる。思い出し笑いは変態の始まりだと随分前に言われたのを思い出す。 確か月森にだったから、お前には言われたくないよと今更ながら心の中で言い返した。よくよく考えなくても、あいつの方が余程変態じゃないか。 そこまで考えて、足立さんの"独り言"に意識を戻した。声のトーンが僅かに落ちる。
「幸せ、だったね。…自分でやっておいて何だけど…何も無ければ、きっと。なまえちゃんが居て、一緒に笑って居られる。それ以上の事は無かった。それ以上の事なんか望もうとも思わない。十分だった。でも…傍観者で居る間、ふと思ったんだ。彼女が知ったらどう思うだろう…ってね」
「(本当に独り言みたい、彼女、だって)」
ぼんやり後ろ姿を眺めながら、思う。 これだけ聞いて居るとまるで足立さんが本当に私の事を好きだったんじゃないかって、勘違いしそうになる。 幸せだった。本音なのかも分からない。彼の演技力を知ってしまったら、全部が疑わしくなるくらいだ。 何も知らなければ、信じていられたのに。
「だから訊いてみたよ。そうしたら、何の臆面も無しに好きで居る、ってさ。…後悔したよ、馬鹿みたいに。こんなに想ってくれる子騙してさ、捜査のフリして。…何も無ければ好きで居ても許されたのかな。なまえちゃんのあの言葉を聞いてから…僕は彼女を悲しませる事になると思った。幾ら謝っても足りない。だからせめて…今の内だけでも沢山笑顔にしてあげたかった。下らない事で笑わせて、…泣かせた事も有ったっけ?…けど、笑顔を見る度辛くてさ。こんなにやり直したいと思った事は無かった」
はあ、とまた溜め息一つ。
「…今からじゃもう、間に合わないし。もしも間に合うなら…まだ好きだって言う資格は有るのかな。抱き締めても許されるのかな。…それ以前になまえちゃんが僕を好きで居るのか、分からないけどさ。だけど出来る事なら好きで居て欲しい、なんて…はは、流石に我が儘だよねえ」
あ、れ。
そこで私は気付いた。 肩が震えているのは笑ってるからだと思っていたのに、声まで震えていて。 、泣い、てる? あの足立さんが。どうして。
呆然としていたら急に足立さんが振り返って、突然の事に確認は出来なかった。 そのまま抱きすくめられてたと思えば、首筋に温かいものが落ちてきた。 そのまま、私も彼の背中に腕を回す。 犯罪者。 恐ろしいものの筈なのに以前までのイメージの所為かそんな気はしなくて、おかしいなと一人ごちに首を傾げる。
「嫌なら払えば良いのに、馬鹿だね」
「…何を勘違いしているのか知りませんけど、別に嫌じゃないですし」
「あはは、じゃあもっと馬鹿だ」
「いつになく失礼ですね」
「今更気付いた訳?…君って本当に馬鹿だよ。僕なんか好きで居ても、良い事なんて一つも無いのに」
「どうですかね」
「無いよ、何もさ。……事実…僕はどうせ死ぬか捕まるか、どっちかな訳だし。君とは一緒に居られない」
「じゃあ待ちますよ」
「え」
「死ぬのは許しません。…あなたが刑務所から出て来るのを、待ちます」
「…待つより他を探した方が良いんじゃない?」
「あなたが納得出来ない癖に」
「はは、バレたね。…だけど本当に」
「私は!」
突然大声を上げたものだから驚いたらしくて、足立さんは体を震わせた。 相変わらず顔は見えなくて多分、泣いているのを見せたくないからなんだろうと思う。
「私は、足立さんが好きです。他の人なんて眼中にありません。これからどんな人に会おうと、あなたが好きです。ずっと。何が有っても。…言ったでしょう」
「……本気だったの?あれ」
「嘘なら今直ぐにでも逃げ出してますね」
「それもそっか。……こんな事なら、重くなる前に自白するべきだったかもね」
「全くです。…ショックだったんですからね、これでも。…だけど幾ら憎くなっても、一緒に居た頃の足立さんが忘れられなかった。いつでも笑わせてくれる、優しい人。…私、足立さんを好きになって後悔した事なんてありません」
「…恋は盲目なんて、良く言ったモンだと心底思うよ」
「私もです」
足立さんは私の首筋に顔を埋めて、黙り込んだ。次から次へぱたぱたと涙が落ちてきては背中へと伝っていく。 ずるいなあ、この人は。 私だって泣きたいのに、一人で。 普通は逆なんじゃないかと文句を言いたいくらいだ。 だけどきっと、この人が弱みを見せるのはこれで最後だから、何も言わずに抱き締めた。 泣くのは、帰ってからにしよう。 これで、二人きりになるのは何年も後になる。少なくともこうして、抱き合えるのは。 だから今は、笑って見せよう。悲しんでいる所は、見せたくない(何より悔しいし、この人への仕返しの為にも)。
私の世界は貴方で輝いている (涙はいつかの日まで、とっておく) (だから今は、精一杯の強がりでさよならをするの)
途中で何書きたいか分からなくなった←
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