*ギャグ *あま? *大晦日
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「いやあ、今年ももう終わりですねえ。何度も大晦日を迎えるのは喜ばしいですが…二百を超えると流石に飽きますな」
「二百も迎えられるのは悪魔だけかと思いますが。百九十九回まで良く飽きませんでしたね」
「細かいです。人間は幸せじゃあないですか、限られた数を楽しめる…羨ましいですねぇ」
「私はどちらかと言えば未来を延々と過ごせるあなたが羨ましいです。いつか空飛ぶ車とか出来るんじゃないですか」
「空を飛んでも別に感慨も何もありませんよ、私は」
「…やっぱり詰まらなそうですね」
「そうでしょう」
大晦日。紅白番組をじっと見ながら何とも気の抜けた会話を交わす。年越し蕎麦を並べた炬燵のテーブルの上に、顎を乗せて布団を引き寄せた。当然ながら隙間が出来たけれど、自分が暖かいのでまあいいかと自己完結する。人工的なものだけど、暖かい炬燵は少しだけ眠気を誘う。12時までは、あと一時間くらいだろうか。日本人としては、除夜の鐘は聞いてから寝たいものだ。お茶を一口飲んで、布団に顔を埋めた。しかしメフィストが、其れを許す筈も無く。
「ちょっと、寒いんですけど」
「私は別に寒くない」
「私は寒いんです」
「…じゃあもっと部屋でも何でもあっためてください」
渋々炬燵布団を膝元まで戻す。テレビの中ではどっと笑いが起きていて、このスタジオの中は暖かいんだろうなーと何故か少し恨めしく思う。蕎麦を啜る音が聞こえて、どうやら私の要求は無視というか、スルーされた模様。普段の奇抜な服装は何処へやら、帽子も当然被っていない、ゆかた、と主張するかの如く布の其処等中に縫い付けられた浴衣を身に纏ったメフィストを睨む。外見は日本人とは似ても似つかない風貌な癖にそれがミスマッチしているというか、こう、意外と似合っているのが勘に障る。湯呑で緑茶を飲む姿すら様になっているのだから、これはもう詐欺としか言いようが無い。むかつく。そんな視線に気付いたのか不満げだった表情からは一転、にやにやとメフィストが此方を見てきた。やめろ、見るな。ふい、と顔を背ける。それでもメフィストが此方を見てまだにやにやしているのが分かる。ううう、何をしてても腹の立つ…!
「おや、どうしました?」
「いいえ何でも」
「随分見惚れていた様ですが」
「それは自意識過剰と言うか、自信過剰ですね」
「素直じゃないですねぇ」
くつくつと至極愉快気に笑う表情が、何処か子供っぽいのに格好良い(なんて死んだって言ってやらない)。長い睫毛が、好きだ。あとさり気に髭があるのも好きだ(これもやっぱり、死んだって言ってやらない)。例えば悪魔らしい尖った耳だとか尖った歯だとか、私物にピンクが多い所だとか、片方だけ長い髪の毛とか頭部の頂点辺りから飛び出した"くるん"だとか。全部が私の好み、というかまあ、そんなものだ。ここまで考えて、恥ずかしくなって止めた。何で奴の魅力についてこんなに語ってるんだ私。痛い。痛いし傍から見たらただの惚気だ。うわぁああ何て事を…恐ろしい。ちらりとメフィストへ視線を遣ると奴はテレビを見ていて、ほっとした反面なんだか悔しいような寂しいような、寂寥感を覚えた。お茶を啜ろうと湯呑を口に付けた、その顔が突然此方を向いた。あ、と。声には出さず、口がそれを形作る。忽ちメフィストの口元には笑みが浮かんで、先程が憤りを感じた其れすら格好良く見えるというのはもう、惚れた弱みと言うやつなんだろうか。
「顔が赤いぞ?」
「ば…あ、ああ、暑いんですよ」
「ほう。では炬燵から出ることをお勧めしますが」
「…そうします」
「っふ、ふふ」
あーっはっは!! あ、ついに声に出して大笑いし始めやがった。私はもそもそと足を炬燵から出すけれど当然、寒いので炬燵からは出たくなかった。と、言うか顔が赤いかそうじゃないかも無自覚なのに、どうしてあんな言葉を次いでしまったんだろう。これじゃあ思う壺も良いところだ。炬燵に戻るには一定の時間が経たなければどう考えても不可能。どうして意地を張ってあんな事を言ってしまったんだろう。今更後悔をしても仕方の無い事ではある。早くも冷たく熱を失い始めた足先を擦り合わせた。比較的温かい指先で触ってみたりして、何とか寒さを誤魔化す。部屋は暖かいけれど、体感温度としては寒く思える。漸く笑いの収まったらしいメフィストが、目尻に滲んだ涙を拭う。それから、手招きをした。何なんだ。訳も分からず首を傾げた。取り敢えず此方に来いと言うのは間違い無いだろうから、意図は読めないけれど足を引き摺って近寄った。
「本当に素直じゃないな」
「は?何がですか」
「寒いなら寒いと言えば良いだろう、間抜け」
「まッ…あなたが揶揄うからじゃないですか」
「人の所為にするなら素直になれるよう努力をしろ」
「……で、何ですか」
普段の口調を取り払えばこんな男だなんて、最初は驚いたけれど今じゃあ慣れたものだ。敬語も無いし、真面目(普段と比較して)だし、おまけに手厳しい。間抜け呼ばわりされるとは予想外だ。普段のお前に比べれば断然マシだ!と声を大にして主張したい。いや無理だけど。どんな目に遭うか分からないから絶対無理だし嫌だけど。でもやられっぱなし言われっぱなしも悔しいものがあるから、いつか必ず仕返しをしてやろう、と一人意気込んで見る。十割増で怪しく見える笑みを滲ませたメフィストはわざとらしいくらい恭しく私の手を取って、かと思えば思い切り引かれた。おい、地味に痛いぞ手加減しろ。緩急を付けられたその行動に着いて行けず、されるがままに胸元へ倒れた。え、何この展開?乙女ゲームか何か?そう言えば最近「もっと日本の文化を知りたいものですね」とかにやにやしながら何かしてたっけ。萌えが興味深いとか余計な知識ばかり身に付けて一体どうするつもりなのか。まさか乙女ゲームをしていた訳じゃあるまいなこのオヤジは。その年でするのか。しかも女の子目線のものを。鳥肌が立つ。
「寒いのだろう?」
「な、な…炬燵が」
「女はこう言う行為に喜びを感じると、この間やったゲームで」
「やっぱりやってんじゃねぇかぁぁああああ!!」
「そんなはしたない言葉遣いだと余計間抜けに見えるぞ」
「るせっこのオヤジ!おま、やめて本当想像内に収めさせて」
「何がだ」
「分かれ、察してくれ、オネガイシマス」
「こんな素晴らしい日に騒がしいなお前は。少し黙らないか」
「誰の所為だとッ」
微妙に噛み合わない話は、突然止められた。静かになった部屋に鐘の音が響く。除夜の鐘だ、と考えている余裕は無かった。重ねられた唇から入り込もうとする舌を必死に追い出そうとする。その度に水音が鼓膜を震わせるのが酷く羞恥を煽って、逃げ場の無い今を直視出来なくて瞼をきつく閉じた。どの位その攻防をしていたのかは分からない。唇が漸く離れた頃には息苦しさに呼吸をする事で精一杯だった。先程まで感じていた寒さは、既に一欠けらも無くなっていた。暑くて、頬が上気している。口の端から零れた唾液を拭いながら見た視界に映ったメフィストの顔は、酷く満足気だった。むかつく。
S l e e p l e s s (こんな年明けも悪くない、はず)
間違えてクリスマスすっ飛ばした… どっちにしろ遅れすぎっていうね!
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