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あいらぶゆーと叫ばせて









*甘め

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「源田ってさ、オーストラリアン・シェパードみたいだよね」

スロヴェンスキ・チュヴァチでも良いけど…でっかくて温厚で、おとなしい感じ。
常に犬の図鑑を持ち歩く彼女は、俺を見るなり言った。一瞬暗号を唱えたのかと思ったが、どうやら違うらしい。普段は授業中でさえ、教科書全部を掻き集めても釣り合わないんじゃ無いかと思うくらい重そうな図鑑を見ている。佐久間曰く大の犬好きで(まあ明らかなんだが)、犬が居れば颯爽と駆け付ける、とか。そんな彼女――杉島綾香は、良く人を犬に例える。例えば吹雪士郎はスピッツ、佐久間はベルジアン・タービュレン?らしい。俺は其処まで犬に詳しい訳では無いので、杉島がそう犬種を唱えても想像すら付かないのだが。彼女は理解を求める為か、分からないと言えば直ぐ様示してくれる。其れでもどうしてその犬なのかだとか、俺には基準すら検討が付かなかった。吹雪がスピッツなのは恐らく雪を連想させるような白が全身を覆っているからだろうと推測するが、実際の所は、分からず仕舞いである。
杉島は机に大きな図鑑を広げると、オーストラリアン・シェパードの頁を開いた。ご丁寧に付箋まで貼ってあり、どうやらお気に入りの犬らしい。他にも点々と所か、至る所に付箋が貼ってある。相当使い込んでいるのは、一目で分かった。開かれた頁の端には50-59cmと大きさが示されている。良く分からないが、中型犬…なんだろうか。何と無く複雑な気分になる。GKとしてのプライドなのか何なのか、と顰め面をしていると杉島がきょとんとした表情で俺を見たのが分かった。慌てて、笑みを戻す。

「50-59cmは、大きい中型犬って感じかな。大型犬に近い、中型犬。小さくは無いよ」

「あ…そうなのか。好きなのか?この犬…」

俺の心の内を読んだ様に、杉島は頬を緩ませてそう説明してくれた。幸せそうな表情につられて、口元が綻ぶ。犬の話をしている時は、杉島は何をしている時よりも幸せそうに笑う。こんな時に、本当に好きなんだなあと思う、がそれはそれで何となく羨ましいような思いも有った。杉島にこんなにも好かれる犬は、幸せなんだろう。そう言えば家でも犬を飼っていると、鬼道が言っていた。犬種は何だったか、これもあまり耳慣れしない名称だった為に忘れてしまった。まあ、後で訊けば良いか。そう結論付けて、杉島の話に耳を傾けた。杉島はどうしてかはにかんで、それから、大きく頷く。

「一番好きだよ。うちの犬とか、そう言うの無しで、犬種としてはね」

「一番…か、家では何を飼ってるんだ?」

「ええと…これ、フラットコーテッドレトリーバーと、コーイケルホンディエ」

「…またあまり聞いたことの無い名前だな」

「そうかな?フラットの原産国はイギリス、ホンディエはオランダ。…うちは両親も犬好きだから、かも」

「いいな、犬好き家族なら話も弾みそうだ」

「うん、凄く盛り上がるよ。…特に人を犬に例えたりするのはね、源田のも、みんな同意してくれたんだ。頼りになりそうだ、って」

「そ、そう…か?」

力強く言うものだから、何だか照れてしまう。家族で満場一致されるとなれば、尚更。しかし男としても頼りになりそうだと言われるのは、とても誇らしい気分になる。杉島はゆっくりと本を閉じて、鞄に仕舞い込んだ。小さな図鑑は手に持ったまま、鞄を重そうに持ち上げる姿を見たら放っては置けなくなって、手を貸す。すると嬉しそうに笑って、それからごめんね、と一言。ずっしりとした重みを感じながら、其れを肩に掛けた。重い思いをしても持ち歩きたい程好きなんだろう。其処までの熱心な気持ちはきっと、俺達がサッカーへ向けるものと同じ様なものなんだと思うと同時に、もしかしたら杉島の愛情の方が強いかもしれないと、内心小さく笑った。

「やっぱり頼りになるね」

「俺以外だって、大変そうな姿を見れば誰だって手伝うさ」

「そうかなあ」

「そうだ」

「そっか…ねー、」

「なんだ?」

「源田って鈍いの?」

「鈍い…?なんでだ…?」

「…鈍いんだ」

そう問い掛けると何故か杉島は溜め息を吐いた。一体どう言う事なのか、俺にはさっぱり分からない。眉根を寄せて再度尋ねれば、廊下を走りだした杉島は半ば程で振り返って、

「オーストラリアン・シェパードが大好きなのー!」

そう呼び掛けた。一度立ち止まって、考えて見た。そんな俺を尻目に杉島はどんどん先に行ってしまう。杉島が、恐らくは階段の下へ消えた頃に漸く俺は、気付いた。ああ、とんだ間抜けだ。鈍いと分かっていながら遠回しに告げた杉島も、其れに気付かなかった俺も。



あいらぶゆー!
(精一杯の愛情を込めて)






先に言って置きます。…犬は…私の好きな犬種と独断と偏見から選ばせて貰いました…いや、思っただけなので周囲から見たらやっぱり違うかなあと思います。ごめんなさい…(笑)







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