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唇に託した想い









*ほのあま

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「源田ア」

「…どうした?」

「んー、呼んだだけー」

だらだらと放課後の静まり返っている教室で、数有る椅子の中の一つにどっかりと座り込んだ私は、普段疎かになっている課題をやるとやる気充分にノートやら教科書やらプリントを自分の机に置いた源田の其れが終わるのをひたすら待って居た。こつこつと延々鉛筆が紙越しに机を叩く音が響く。源田と私のクラスは違うから、確か今座って居るのは佐久間の席だった筈。今日は部活が、無い。理由としては、今日は影山(そう、すい?)に用事が有るんだとか。スパルタの割には自分勝手だなあと思ったりもしたが疑問を抱いて居ない風な源田に言える訳も無く。無いだけ、良しとしよう。源田と二人きりの、この心地良い空間が好きだから。源田は煩くない。今は兎に角、普段も無駄口は叩かない。鬼道なんかは意外と口下手な癖に良く喋るし、佐久間なんかは特にべらべら喋る。良い友達だ。そんな周囲が居るからこそ、余計この空間が心地良い。普通で有ればうざいとか、鬱陶しいとか思うような戯れにも「そうか」とだけ答えた。ああ、好きだなあ。
そうか、空間も好きだけど何より、源田が好きなのか。広い、フィールドに立てばゴールを守る背中が目の前に有る。佐久間は源田のいっこ後ろらしい。羨ましい。つい、と指を滑らせると一瞬びくっと震えた源田は、それでも怒る事無く「もう少しだから」と再開した。うん、大丈夫。見える筈も無いのに頷いて見せて、それなのに源田はそれが分かったように待って居てくれ、と付け加えた。それにしても、広い背中。男の子って言うのはみんなこんなものなんだろうか?いや、鬼道や佐久間はもっと華奢だった筈。あいつらは女の子みたいな背中をしている、からと言って頼れない訳じゃないけれど。贔屓目なんだろうか。佐久間には悪いけど、座る場所を椅子から机に変えて、源田の背中に抱きついた。おお、私ってば積極的。自分でやっておいて何だけど笑えた。今度こそ驚いたように源田は大きく震えて、少しだけ黙ってから、

「何、してるんだ?」

「源田の背中にダイブした」

「…お前な…」

呆れたように溜め息を吐かれる。むむ、やっぱりやり過ぎたかも知れない。しかし、あったかい。頬を寄せるとどくんどくんと若干速い気のする心臓の音が、聞こえた。「…源田」。源田は何も答えない。その代わりシャーペンが机に置かれて、何かと思えば源田は振り返って私を抱き締めた。

「なに、どうしたの?寒いの?」

「寒かったら異性の友達に抱き付くのか?」

「え、それは…えっと」

「綾香」

「は、い」

「今週の日曜日に、一緒に出掛けるか」

「…うん!」

優しい微笑みを浮かべた源田は、そう言って私に口付けました。遠回しだけど、これで十分。日曜日はとびっきりの、お願いしますと冗談めかして言って見た。




(それなのに、君はまた笑って頷くんだ)












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