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心臓は一つじゃ足りない









*安田バースデー文
*微ギャグ
*甘?

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今日は俺の誕生日…の、筈だ。
カレンダーも携帯も確認したのに、学校に着いて見れば知り合い誰一人として俺の誕生日を祝わない。おめでとうの一言が無ければプレゼントなんて以ての他。何?何コレ何のいじめ?あ、それとも良く有るサプライズ?寧ろサプライズとか無かったら俺の心折れるよマジで。だって意中のあの子にすら祝って貰えてないんだぜ俺って何て不憫な男!面白過ぎて目の前が見えないぜ!親ですら、朝起きてカレンダーを確認済みの俺は今か今かとるんるんしてんのに母親の第一声は「おはよう。朝ご飯出来てるわよ」。その一言で俺の心は微塵に砕かれた。その後のこの有り様だ。泣いていいか?いいよなあ!?

「…はあ」

「何、どうしたの安田くん」

「…ああ、アシタバか。いや何でもねーよ別に気にすんな」

「えっ…そ、そう?」

あんまりにも俺の反応は不自然だったらしい。アシタバが相当動揺した様子で席に戻って行った。我ながら棒読みでは有ったと思う。此処で今日誕生日なんだよなーとか言えたら良いんだろうけど生憎そんな勇気は無い。だって自分から言って漸く祝って貰えるなんて悲し過ぎるだろ。痛過ぎるだろ…!だから俺は言わんぞ、絶対。お前らが言うまで負けねえから!
…とか、そんな事で意地を張って居れば既に放課後。サプライズを期待して見たけど見事に美作も藤も皆帰宅済み。残ったのは俺の悲しく寂しい後ろ姿。何かのいじめなんだよな、これ…そう思わないと逆に涙が出そうなくらいだ。
椅子に座ったまま呆然として、約30分。どの位経ったかと顔を上げると丁度誰かが教室に入って来る様子が見えた。誰かと訊く元気も無いので黙ったまま、また俯く。

「安田くん」

透き通った声がりんと響いて、反射的に勢い良く顔が上がった。この声は、まさか、まさかのまさかの、

「安田くん!」

「杉島!」

俺が呼び返すと予想通りの声の主はぷはっと噴き出して、からからと笑った。ああ、舞い上がるってこう言う事?身を持って実感したぜ…!何つか、地獄から天国まで一気に引き上げられた気分だ。さっきまで沈みきっていた心は、今や幸せに満ちている。神様はまだ俺を見捨てちゃいなかった…!杉島は笑いで目尻に滲んだ涙を拭って、俺に手を差し出した。

「少しだけ付き合って欲しいんだ」

「ん?あ、おう」

ぎゅっと握れば嬉しそうにまた笑って、有難うとか、ああ可愛いよマジで!俺の目に狂いは無かった!いつでもエロイ事で頭一杯な俺だけど杉島に対しては其処まで邪な気持ちは無い。そりゃ好きなんだしちっとは有るけど其れも純粋なモンで。何つーか、浄化されんだよなあ…も、勿論熱子もそうだけど!でもやっぱ、俺の一番は杉島なんだって偶に思う。
ぼんやり一人でそんな事を考えて居た俺が連れて来られた場所は、屋上。夕焼けが綺麗で、俺は何れだけの時間を教室で過ごしてたんだろう。でもその時間が有ってこその起死回生とでも言おうか、この奇跡だ。今だけは俺を落ち込ませた美作たちに感謝をしてやろうと思う。

「…安田くん」

「ん?」

「誕生日、おめでとう」

「!覚え、てた…のか?」

「当たり前だよ!…あ、ええと」

「…サンキュ、杉島がそう言ってくれっと嬉しい」

「…!うん」

うおおお何この初々しいカップルみたいな!恥ずかしい!がしかし杉島が俺の誕生日覚えてて当たり前って…!美作たちですら覚えてなかったのに、杉島が。何かアイツらがどうでも良く思えてくる、コイツの「おめでとう」はそんだけ価値が有ると思えるから。杉島はずっと手に持って居たんだろうか、小さめの箱を、俺の手に握らせた。誕生日プレゼントだと言うから開けようと包装に指を掛けると、杉島は慌てて俺を制した。

「い、家で開けて!」

「え、…分かった」

俺が呆気に取られつつもそう返せば、杉島は満足げに頷いて、また明日と俺に背を向け走って行った。こんなに嬉しい誕生日が今まで有っただろうか、いや無い。古典の反語みたいになったけどマジで一生の幸せ全部使い果たしたんじゃないかってくらい、幸せだ。

軽い足取りで帰宅した俺が、プレゼントの腕時計と一緒に入って居た小さなメモを見て杉島の家に行くまで、あと30分。



心臓は一つじゃ足りない
(走り出した想いは止まらない)








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