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ゲームオーバー。と笑う









*甘くない
*鬼道→綾香さん前提
*何か若干いかがわしい

Go→














私は、不動明王と言う男が苦手だ。
形容し難いと言うか上手い言い表し方が見付からないと言うか、ともかく生理的に受け付けない。何がと言われればまた困るんだけど、強いて言うならあの雰囲気と笑顔。私の第一印象は「いやらしい」、それしか思えなかった(何かえろい事とか普通にしそうだって、妄想じゃないよ絶対!)。射抜くような吊り目に、少しだけ持ち上がった口角。あの低い声。これまで苦手だと感じる奴は他に居ない。同じ帝国学園キャプテンなら元でも鬼道の方が断然マシ、と言うかあの人は良い人だよ。寧ろ私は鬼道リスペクトしてますもの、あんな変態モヒカン野郎より全然――


「なーに百面相してんだよ、綾香チャン…?」

「ひょわぁああっ!!」


はあ、と熱い吐息が耳に掛って、思わず飛び上がった。ななななな、なに…?!咄嗟に耳を押さえながら勢い良く背後を振り向くと先程まで脳内に在った不動明王が立って居た。くそう何てバッドタイミング。しかも妄想じゃないって証明までしてくれたじゃないか、耳に息吹きかけるとか想像通り変態だ…!その不動明王、もう面倒だから不動でいっか。不動は私の反応を至極満足げ且つ楽しげに、例のいやらしい笑みで眺めている。依りによって単独行動してる時に遭遇するとか、私ってなんてツイてないんだろう…!せめて鬼道が居てくれれば…いやいや、そんな迷惑は掛けられない。誰も居ない方が好都合なのかも知れない。取り敢えず、何よりも先にこの場を切り抜ける方法を探さないと…。


「はっは、中々イイ反応すんじゃん…」

「(無視とか後が面倒そうなんだよなあ…ああどうしようどうしようどうし)」

「お前って百面相好きなワケ?」

「そ、そんな訳無いじゃないですかー…あははっ…」


まずい、あからさまに腰が低くなった…!何でこんな奴に敬語使わなきゃいけないんだ意味分からん!しかもまた百面相って…考えてる事全部顔に出てるのか私。何て不便な顔だ、もういっそ仮面でも付けて過ごそうかな。あ、そうだ表情隠すなら鬼道みたいにゴーグルとか付けようかな。―――じゃなくて!今は目の前のコイツの事だ。この場をやり過ごせれば、次からは注意出来る。大体一人で出歩いたのが運の尽きなんだ、もう出かける前の私を全力で殴ってやりたい。コイツの出し抜き方なんて思い付く訳ないだろ…!


「警戒し過ぎじゃねぇの?…ああ、鬼道チャンが居ねぇからか。バッカだなァアイツも…か弱く無くても大事な奴くらい一人にしちゃいけねぇよなァ…?」

「は…?」


つーかコイツものっ凄い失礼な事言いましたね。か弱く無いって、そりゃそうだけどデリカシー無いな本当…!信じられん。や、コイツにデリカシーとか有っても有るだけ気持ち悪いけど…それでも心外だ。――だから、違うって。何でツッコミ所が変なの私。
不動は今、大事な奴、って言った。それは、鬼道にとって私が大事ってこと?そうだったらかなり凄くとんでもなく嬉しい。でも不動なんかに訊き返す訳にもいかないから、どうしようも無いや…。後で鬼道に訊くのも結構な勇気必要だし…どうしろってのさ。


「何、気付いてねぇの?…ふーん…へぇ。鬼道チャンもカワイソーになァ…こんな鈍感じゃ仕方ねぇか」

「話が読めないんですけど」

「へっぴり腰はもう止めたのかァ?」

「うるさい!」

「馬鹿正直なヤツ…まァいーけど。お前に教える訳ねぇだろ」

「コイツマジむかつくな…」

「聞こえてるぜ、綾香チャン?」

「ふんふふーん何も言ってませんよーだ」

「アイツもこんなのの何処が良いんだか…」

「こんなのって言うな!」

「何も言ってねーよ」

「円堂もこんなのをどうして入れたんだか…」

「…付き合ってらんねぇな」

「へーえじゃあさようなら!」

「お前全部顔に出てんだよばーか。あからさまに嬉しそうな顔してるって気付いてねぇの?」


へ、と不動は嘲笑する。むっかつく…どうも掌の上で踊らされている気がしてならない。そんな訳にはいかないんだ、私はこれから上手く逃れなきゃいけないんだから。もしかしたら私を動揺させる為に適当言ってるだけかも知れないし、うん、"馬鹿正直"に信用する必要も無いじゃないか。それに今なら、走ればギリギリ逃げられそう。じり、と一歩後ろに下がる。するとそんな行動を分かり切って居たように不動が間を詰める。ああ、もう何なの…!私より他の部員と絡めばいいのにばかなのしぬのコイツ本気で!仮にも元帝国学園な上、サッカー部員。足はかなり速いし体力も私より遥かに有る。タイミングが合わなきゃ逃げ出す事は先ず不可能。本当に恨むよ、出掛ける前の私。
するりと伸びてきた不動の手、逃げようともう一歩下がると何てお約束、背後には建物が迫っていて。このままじゃ追い詰められるのも時間の問題。じり、じり、じり。私が下がれば不動は距離を詰める。とん、と小さな衝撃を感じて背後に視線を遣れば、案の定もう後ろに下がる距離は無かった。ああ、何てバッドエンド。これなら無視しておいた方がまだ良かった。ゲームなら、やり直せるのに(生憎、現実はそう甘くない)。


「残念だったなァ、綾香チャン…ゲームオーバーだ」

「あはは…リセットしたいね、本気でさ」

「そう冷たい事言うなよ、潔く諦めた方が身の為だぜ?」


つい、と不動の指先が私の顎を捉える。何のエロゲだよ、もう(年齢的にもエロゲなんてやったことも無いけど!)。一か八か、不動の急所でも蹴ってやろうと勢い良く足を振り上げた。肌に触れた感覚に内心ガッツポーズを決めた所で、器用にも不動の膝が私の足を掬って、そのまま抗う術も無く私は尻餅を着いた。コイツってもしかして、こう言う状況に慣れてるんじゃないだろうか。そうじゃなきゃ、こんな、


「逃がさねェよ」







ゲームオーバー。と笑う
(都合良くブラックアウトすれば良いのに)








どうやら私は不動をお色気担当にでもしたいようです。何かエロイイメージが有るのは私だけ…?帝国キャプテンはサディストだと良いなあ…何の希望だコレ。どちらかと言えば鬼道は誠実なイメージ。耐えて耐えて、…って感じで。けど不動は本能のままにやりたい事やりたいときに、って感じ。どうでもいい?サーセン。






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