※R団企画 *甘め Go→
嫌です、離して下さいったらー!」
「そりゃこっちの台詞だ馬鹿!」
どたんばたん、聞こえないけれど漫画だったらそんな効果音が付いてるんじゃないかと思う。 ベッドの上で暴れる私は、決して襲われそうになっているから抵抗しているとかそんなものじゃない。
38.6度、35度と平熱の低い私にとってはかなりの高熱だった。 それでもランスさまに頼まれていた仕事があって、其れを期限内に終わらせられれば休暇をくれてやるとの事で。 毎日コツコツやっていたのに中々終わらない仕事の期限は正に今日、23:59までだった。
「私は仕事やらなきゃなんです!」
「高熱出してる奴が仕事だぁ?迷惑なんだよ、寝とけ!」
迷惑。 ぐさりと突き刺さる言葉は、私の恋人から発せれたもの。 勿論、刃向かって仕事をしようとする私を気遣っての言葉なんだろうけど、今の言い方は流石に傷付いた。 歪む視界に、あぁ涙腺脆いなぁなんて現実逃避した。
「…休暇貰えたら、ラムダさんと何処か行きたくて…私みたいな下っ端は休んでる暇なんて無いんです。休暇を貰える事なんて滅多にないから…!」
自然と震える声が憎い。 これじゃあ、ラムダさんに"泣き落とし"してるようなものだ。 そんな、情けない事はしたくなくて。 この事だって言うつもりは無かったのに。
ずる、と私の服を掴んで居た手が離れて、ベッドに体が沈んだ。 ラムダさんの顔は、見られない。 きっと凄く怒ってるんだろうって思ったら、怖くて思わず腕で顔を隠した。 暫くしてからラムダさんの溜め息が聞こえた。
「…いいから、休んでろ。もう一回言うけどな…んな状態で仕事されても、迷惑だ」
「っ…わかり、ました」
次から次へと涙が溢れてきて。 部屋の扉が閉まる音を聞きながら、私は目を閉じた。 私はラムダさんの何なのだろう。 そう頭の中で回り続ける言葉を払拭するように、無理矢理意識を眠りに落とした。 次ラムダさんの顔を見た時に、いつも通りに出来るだろうか、と。
23時、少し前。 息苦しさに目が覚めた私は、どうしても諦めきれずに書類のある部屋へと向かった。 暗くて静かなアジト内に、ひたひたと足音だけが響く。 バレないだろうか、とふと不安が過ぎったけれどこの際気付かないフリをして進んだ。 仕事場、基作業室を覗き込むと明かりが付いていて、心臓が跳ねた。 こんな時間まで、誰だろうか。 ランスさま?それとも、アポロさま? まさか、ラムダさん、だろうか。
「(きっと、違う。消し忘れ、かな)」
ひた、となるべく音を立てないように近付いて行く。 次第に机が近くなって、微かな明かりに照らされた顔に、私は思わず声を溢した。
ラムダさん、と口を塞いだ時には既に遅くて。 此方を見た顔から、目を逸らした。
「何やってる」
「…そ、れはこっちの台詞です。こんな時間まで、仕事ですか?」
眠りに就く前、考えた事。 どんな顔をして会えばいいのか、と。 当然同業者なのだから顔を合わせる事は避けられないけれど、こんな風に、それも整理が付かないまま会ってしまうなんて。 少しの間、避けようかと思っていたのに。
「…寝ろ」
「…や、です」
はい。そう答えるつもりだった私の唇は反抗、気付けばそう返していた。 ラムダさんの目が細められて、何だか品定めをされている気分だった。
「もう熱も、下がりましたから」
真っ赤な嘘で、逃れる。 計っていないのだから、下がっているかどうかなんて知らない。 もごもごと聞き取り辛い声で告げた言葉は果たして、彼の耳に届いたのだろうか。 朝方に聞いたような溜め息が、静まった部屋に響いた。 今度こそ、怒鳴られる。
そう思った矢先、小さく手招かれた。
「…え、いいん、ですか?」
「お前が嫌って言ったんじゃねぇか、ほれ此処座れ。…ったく、何で大人しく寝てないかねぇ」
ぶつぶつと文句を吐くラムダさんは先程までの冷たい雰囲気ではなく、いつも通りだった。 何と無く安心して、示された椅子に腰を下ろす。 ラムダさんの手元を覗くと、其処には後少しで終わりそうな書類が重ねてあった。 何と無く見覚えがあるような文字の羅列。 傍に並ぶ文字はラムダさんのものだろうか。 とても綺麗な字体で、あぁ何だか大人の文字だ、なんて良く分からない感想。 其れに比べ並んだ拙い文字は、まるで私の書いた文字のようなものである。 酷い字だと思いながら、目を通す。
「こ、れ…」
並んでいた文字は、紛れも無く私のものだった。 ロ、は丸くまるで円を描いたような形の癖字。 読み辛いから直せと、何度かランスさんにどやされた事もあった筈だ。 それが途中から、綺麗な形の良い字に変わっている。 圧倒的に多い其方はラムダさんのものだろう。
「何で、これ…」
隠れてやろうと思っていた、未完成の書類。 ラムダさんが居るからと、もう諦め欠けていた書類。 訳も分からず、動揺で言葉が上手く続かない。
「…あんな事言われて」
「へ、?」
「あんな事言われて、放っておく程鬼じゃねえ。それに俺様だってお前と出掛けたい訳だよ、分かれ」
優しくて大きな掌が、私の頭を撫でる。 今朝の冷たいラムダさんは、何処へやら。 いつもの調子でそう告げるラムダさんは、いつもより格好良く見えた。 もうちょっと待ってろ、と私の頭から手を離したラムダさんはまた私の書類を片付け始めた。 当の私はその様子を見ている内に船を漕ぎ始めて、間も無く眠りに就いてしまった訳だが。
翌日、ランスさんと鉢合わせた際に凄く褒められた。 「あの量を終わらせるなんて、あなたを少し甘く見ていたようです」、と。 ただ、「例え手伝って貰っていても、です」とも言われたけれど。(やっぱり見慣れた字に変わっているから、だろうか) ともかく、休暇は貰えるらしかった。 1日好きな所で過ごすと良い、との事で。 ラムダさんの所へ飛んで行った私は、休暇を貰う為に片付けている彼の書類整理を手伝うのだ。
君と歩く世界は、 (宝石よりも輝いているのです!)
企画に投稿させて頂きました! もっと広がれリメイクR団の人気…!と願いを込めて←
|