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ベーゼ









*キス魔な安田
*結構甘いというか甘い
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私の恋人は、凄く、とっても、かなり、キス魔です。
(そう、それはもう、とんでも無く。)
(幾ら強調しても、足りないくらいに)


「よ、綾香」


朝、家の前。一回目。
安田くんの唇は私の頬を掠めた。優しく笑む唇が、憎い。
だって凄く格好良いんだ、エロリストの癖に、ドキドキさせるのが上手い。
キスする時は私の頬に手をそっと添えて、する。
その仕草が大人っぽくて、私の心臓が壊れるんじゃないかって位煩くなる。
しかも、何でそんなにするのかって訊いたら、お前にだけだよって笑ったんだ。
私幸せ過ぎるんじゃないかな。キスをされる度、安田くんがもっと好きになる。
肝心の理由は、好きだって言う代わりなんだって言ってた。
どう言う意味かってまた訊いたら安田くん曰く、『何かそっちのが俺も嬉しいから』…だそうで。まあ単にキス魔なんだよね、安田くんってさ。
柔らかい感触が、好き、らしい。
頬とか、さらさらしてんのに、柔らかいって言ってた。

登校する時は二人で並んで、手を繋いで歩く。
ゆらゆら繋いだ手を揺らしながら歩く通学路は、今までは授業とか嫌で重苦しかったのに安田くんと通うようになってからは幸せなものになった。
今日の授業の話だって安田くんとすれば、楽しくなる。
嬉しかったり緊張したりで私の手、汗ばんでないのかな。
安田くんは何も言わないから、逆に不安。
基本的には前を向いて話してるんだけど、偶に私を向いてくれる安田くんは凄く格好良い。
ふざけて笑う顔も、優しく笑う顔も、へらって力の抜けた笑顔も、意地悪な笑顔も。
全部が格好良くて、本当や安田くんに彼女が居なかったのが不思議で堪らない。

安田くんの話に相槌を打ったり私の話をしたりしながらぼんやり安田くんの顔を見ている内に、学校に到着してしまった。やっぱり少しだけ、残念だ。
学校に着いたら他の友達が居て、勿論私にも居るけど安田くんも居る。
だから話す機会も少なくなるし、何だかんだ嫉妬する自分もいやになる。
だからやっぱり、学校は好きじゃないかも。安田くんが居るから、まだ大丈夫だけど。
はあ、と溜め息を吐いたら安田くんが心配そうに私を見た。
小さく首を傾げて、覗き込むようにして「どうした」って訊いてくる。
けどこんな下らない事を言って困らせるのも嫌だから、今日は数学有るねって言っておいた。



「おはよう」

「おはよう綾香ちゃん、今日も可愛―――安田しね!」

「はあ!?訳分かんねーし!何だよいきなり」

「手なんか繋いでんじゃねーよ、ほれ離せ離せ!」

「えっ」

「ちょ!」


教室に入ると美作くんとか藤くんとか明日葉くんが集まっていて、安田くんとそこに近付くと真っ先に美作くんが側に寄って来た。
少しだけ安田くんと口論したあと、私達の繋いだ手をその間に手刀を入れて切ってしまった。ぱっと離れる手と手。思わず声出しちゃったけど、気付かれてないよね?
藤くんが溜め息を吐いて、明日葉くんは苦笑いをしてる。
手が離れると安田くんは友達の中に溶け込んで行ってしまう。
出来るだけ一緒に居たかったけど、仕方無いかなぁ…。
残念そうな顔をしてたみたいで、美作くんがわたわたし出した。


「あ、ううん気にしないで。ごめんね」


そう言ってその場を離れた。
安田くんだって私とだけじゃなくて、友達と一緒に居たい時だってあるよね…?
そう納得する事にして、私は席に着いた。
私の席は、安田くんの左斜め前。藤くんの、右斜め後。美作くんの、右隣。
だから嫌でも会話は聞こえてくるんだけど(別に嫌って訳じゃ、無い)、偶に安田くんの口から出てくる私の名前が凄く綺麗に聞こえてくる。私の名前じゃ無いみたいに。
多分それは私が呼ばれたからじゃなくて、他のひととの話題の中で出てくるからなんだろうと思う。藤くんの口から出ても、何だか違うんだけど。


「杉島!」

「はいっ!?」

「授業始まんぞ?」


気付けばHRも終わってたらしくって、安田くんが隣に立っていた。
あれ、私考え事してて、そんな長い時間だったのかな。
吃驚した、そんなに自分が夢中だったと思わなかったのに。
安田くんは吃驚してる私を小さく笑って、頭を撫でた。
髪がぼさぼさになるようなのじゃなくて、優しく、そっと。
それだけで私の心臓はどきどきして、顔が熱くなるのが分かる。
恥ずかしい、けど嬉しい。やっぱり私って幸せ過ぎるんじゃないかな。

小さく音がして、二回目。今度は額にされた。教室なのに。
慌てて額を押さえると、ふふってまた安田くんが笑った。
美作くんが何してんだ安田とか何とか言って、安田くんは別に良いだろってまた私の頬にキスをする。
き、キザって、こういうのを言うのかな。けどキザって漢字にしたら気に障るだから、違うのかな…?
あ、今度は藤くんが顰め面になった。私たちから視線を逸らして、授業の準備を始める。
つくづく安田くんってキス魔なんだなーと思う。別に嫌じゃないし(心臓には悪いけどね…!)寧ろ嬉しいから良いんだけど、出来れば周りの視線を気にして欲しい。
美玖ちゃんとか真っ赤だし…私も負けず劣らず真っ赤だけど!


「有難う、安田くん」

「んー?…キスの話?」

「ち、違うってば!!授業の話!」

「あーそっちか。別に、何かぼうっとしてたから…考え事?」

「う、うん…別に大した事じゃないんだけどね」

「ふーん…なに、俺の事だったりして」

「えっ!あ、ううん、ち、違うよ」

「いや明らかにそうだろ…」


お前それで誤魔化してるつもりかよと言いたげに安田くんが言う。
そ、そんなに分かり易かったかな…分かり易かったよね。
恥ずかしくなって顔を俯かせると、安田くんが顔を上げろって言った。
何だろうと思ってあげると、視界が安田くんいっぱいになって。
今度は、今度こそ、唇に安田くんの唇が触れた。


―――くち、に?


顎に指が添えられて、教室のやや左側、真ん中辺りで、他の生徒が居るのに。
きゃあぁあ、と誰かの悲鳴なのか何なのか分からない声が響いて、続くのは囃す様な口笛。安田くんの唇は離れない。私の思考回路はショートして、体が動かない。
大きく開いた目に、安田くんの睫が見えた。其れが凄く、きれいで。目を、奪われた。
どのくらいしてたかは分からない。
もう何分もしたんじゃないかって頃に、唇は漸く離れた。
上手く頭が働かなくて、どんな反応をすれば良いのか分からなくて、呆然とする。
視界に映った美作くんが、明日葉くんが、藤くんが、美玖ちゃんが、赤い(多分、私も)。クラスは喧騒ってくらいに騒がしくて、私たちの話題で持ちきりになった。
最後に安田くんも見ると、安田くんは意地悪な笑みを浮かべていて。
どうして、と訊こうとした寸前、私の唇は安田くんの其れにまた、塞がれた。





ベーゼ
(考え事なんて飛んでいって、)
(私の頭は、君で塗り潰された)











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ちょっと書いてみたかったキス魔安田…
安田って唇好きそうって言う妄想の産物。
因みにベーゼはフランス語でキスって意味ですよって。






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