ああ、わたしは、わたしは、なんてことを! 取り返しの付かない失態だった。人生最大の致命的なミスだった。どうして、どうして。なんで。失敗した。失敗した。失敗した。 わたしは気付くのが遅かった。思い出すのが遅かった。既に時は過ぎ去り、しがない魔術使いであるわたしはなにもすることができない。 望んだ未来は手元に無く。欲しかった物は何処かへ消えた。愛していたのだ。愛されていたのだ。 わたしという人間は、彼を。 彼は、わたしを。 何が澄み渡る空だ。 彼の心が澄み渡った時など無いだろうに。 きっと一人で消えるのは怖かっただろう。きっと一人で死ぬのは嫌だっただろう。よりにもよって初夏の日に、梅雨の終わりに、痛いほどの陽光の下に、彼を一人で行かせてしまった。二度目の死を、最悪の季節に与えてしまった。 馬鹿な人だ。自分が居なくとも葉子は幸福だと思ったのか。愚かな人だ。そんなわけないから葉子は彼を現界させ続けようとしたのに。 とくとくと波打つ鼓動は一人分しかない。 流れる血潮は一人分しかない。 それなのに、ここにあるのは二人分の記憶だ。 酷い女だと笑ってほしい。 泣き虫の弱虫だと笑ってほしい。 わたしにもう一度、笑ってほしい。 まだ、お別れも言ってないのだ。 まだ、伝えたい言葉を言ってないのだ。 まだ、ありがとうすら言えていないのだ。 だから────だから。 葉子は再び、夢を見るのだ。 月に望みをかけるのだ。 遠い昔の雨の日に。 遠い昔の梅雨の中で。 遠い昔の、止まない雨を。 |