×
「#溺愛」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

ああ、わたしは、わたしは、なんてことを!
取り返しの付かない失態だった。人生最大の致命的なミスだった。どうして、どうして。なんで。失敗した。失敗した。失敗した。

わたしは気付くのが遅かった。思い出すのが遅かった。既に時は過ぎ去り、しがない魔術使いであるわたしはなにもすることができない。

望んだ未来は手元に無く。欲しかった物は何処かへ消えた。愛していたのだ。愛されていたのだ。
わたしという人間は、彼を。
彼は、わたしを。

何が澄み渡る空だ。
彼の心が澄み渡った時など無いだろうに。
きっと一人で消えるのは怖かっただろう。きっと一人で死ぬのは嫌だっただろう。よりにもよって初夏の日に、梅雨の終わりに、痛いほどの陽光の下に、彼を一人で行かせてしまった。二度目の死を、最悪の季節に与えてしまった。

馬鹿な人だ。自分が居なくとも葉子は幸福だと思ったのか。愚かな人だ。そんなわけないから葉子は彼を現界させ続けようとしたのに。

とくとくと波打つ鼓動は一人分しかない。
流れる血潮は一人分しかない。

それなのに、ここにあるのは二人分の記憶だ。

酷い女だと笑ってほしい。
泣き虫の弱虫だと笑ってほしい。
わたしにもう一度、笑ってほしい。

まだ、お別れも言ってないのだ。
まだ、伝えたい言葉を言ってないのだ。
まだ、ありがとうすら言えていないのだ。

だから────だから。

葉子は再び、夢を見るのだ。
月に望みをかけるのだ。

遠い昔の雨の日に。
遠い昔の梅雨の中で。
遠い昔の、止まない雨を。