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次の対戦相手を確認しようとして、岸波白野は立ち止まる。前方の目的地────掲示板の前で、同い年くらいのアバターの女子生徒が空気と戦っている。

「い、いたたたた!ちょ、やめっ、柄は痛い!殴打は良くない!」

どうやら自身のサーヴァントと揉めているらしいが、霊体化しっぱなしのままでは女生徒だけが肉眼に映る。既視感を覚えて近付けば、少女の方も此方を向いた。

「あ、この前の...」

なんのカスタマイズも無い凡庸アバター。しかし、岸波白野には先日出会った彼女なのだと分かる。理由は無い、のだが。少女はあまりにも特異な雰囲気を纏っている。

掲示板から少し退いた少女は「私は葉子。貴方の次の対戦相手。短い間だけど、これから宜しくね」と右手を差し出した。
温和で柔和で優しげな笑みである。礼節もある。白野はそれを握り返そうと右手を伸ばし───掴もうとして、襟をくん、と引っ張られる。首の圧迫感と突然の衝撃に驚いて、引いた人物───己のサーヴァントを見やれば、既に剣を抜いており、険しい顔をしていた。

「あれー、外しちゃったか。自信あったのになあ」

呆気からんと葉子は息巻いた。
白野の立っていた場所に鈍く光る長ものが刺しこまれている。葉子の右手はばちばちと電気を纏っている。ぞっとして体制を立て直せば、「なんじゃあ、外したか。まあえい、予定がちくと遅くなるだけぜよ」と大して気にした様子もない男の声が被さった。どうやら、彼女のサーヴァントに闇討ちされかけたらしい。

「おまんは逸り過ぎなんじゃ。呼吸を見誤っては、殺せるものも殺せんちゅうたじゃろうが」

「ごめんごめん。気を付けるね」

軍帽。黒いコート。着物。土佐訛り。ぎらつく赤い目は岸波白野を捉えず、己がマスターだけを馬鹿にしたように見ている。葉子の方は酷く個性の薄い外観だが、その内面は決して凡庸ではない。恐ろしく強かな女であったことを理解せざるを得ない。というか、平然と初手で殺しに来たあたり、中々の人物である。

しかしペナルティが怖くないのだろうか、と考え、思い当たる。
先日のアーチャー戦の際、彼女は言っていた。しかくの中の死角、と。学校という四角い箱、刺客、視覚、死角。ついでに言うとここは視聴覚室の前。何処から何処までが魔術の範囲かは知らないが、どういう魔術であるのかも知らないが、ここでなら斬りかかっても問題が無かったのだろう。

だからと言って、平然と襲い掛かるのは余程の度胸が居る、と思うのだが...見るからにマスターの方の腰が低い。即刻謝罪をしたにも関わらず、失態をなじられ続けている。そんなに肝の据わった相手に見えない、というのが正直な感想だ。中々に個性の強い主従である。

呆然とする岸波白野を置き去りにして言い合い、というか一方的な説教を続ける葉子たちは、既に白野を視界に捉えてないのだろう。別に白野はそれを気にしないが、白野のサーヴァントはそうではないらしい。「随分と軽んじられている様子だがね、マスター」と呆れた風な声を出した。



アリーナの探索をしていれば、いずれ彼女たちと鉢合わせするだろう、と思っていた。
初日、三日目、共に運良く回避したわけであるが、今回はそうは行かなかったらしい。白野のアーチャーが先手で剣を投影する。道を挟んで向かい側に葉子たちは居るから、あちらからは攻撃が届かない、はず。
投げ付けられた剣を葉子のサーヴァントは目で追った。気付かれたか、と回避されることを予想して、予測して、葉子のサーヴァントがにんまりと弧を描いた。

「こんなもんでわしを射てると思うたがか?」

ばちん、と弾ける音がして、焼き焦げた剣がボロボロと霧散していく。彼────、恐らくはセイバー。それなりの対魔力を持っているらしい。
ランクの低い簡単な投影では傷どころか触れることすら叶わなかった。葉子の方も遅れて追い付いたらしく、状況を交互に見て「あー、あー、」と困った顔をした。

「セイバー、私を置いて先行かないでよ…」

「もうちくと速く走る努力をしたらえい」

葉子は何か言いたそうにしたが、じろりと睨みあげられて口を閉じた。仕方なく岸波白野に向き直り、言葉を続ける。少し、疲労の見える声色だった。

「どうする、岸波さん。私たちは今ここで勝ってもいいけれど...」

彼女は道無き道を歩いてくる。このフロアの特徴だ。四角いパネルの上を軽快に跳ねてきたセイバーと葉子は、ちゃき、と互いの獲物を取り出した。刀と銃。陸軍とブレザー。長モノと飛び道具。相性の悪そうな主従、というイメージが勝手に付いていたが、そういうわけでもないらしい。双方とも律儀に待っていてくれるあたり、存外気が合うのだろうなとも思った。
ここで勝つ、と言い切った辺りに自信が見て取れる。いや、信頼か。彼女は決して慢心をしていない。だが絶対の信を己のサーヴァントに置いている様子だった。

少し悩んで、覚悟を決める。どうせ遅かれ早かれ情報収集のために交戦する必要はあったのだ。岸波白野は己がサーヴァントに声をかける。倒せなくてもよい。この場で終わらなくてもよい。ただ、来たるべき七日のために必要なのだ、彼らの情報が。

白野のサーヴァントが剣を投影したのを合図に、打ち合いが始まる。彼女たちは、強い。