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「#寸止め」のBL小説を読む
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「げえ、出たあ!」

「なんです?バトルドームですか?」

ツクダオリジナルから出ていそうな商品名を口にした美少女は、硬いブーツを鳴らして此方へ距離を詰めてくる。
いや、詰めてくるとかそんな緩いものじゃない。俊歩...ソニード...縮地。空間の歪みを肌で感じた。三歩分の空間を縮めてくるって一体どういう化け物なのだろう。死神かな?
葉子はあまり深く考えないことにして、眼前の美少女を見やる。可憐で華奢で白くて可愛い。すごくかわいい。縮地はかわいくない。

薄い桜色の頭髪に、刀剣のような鉄色の瞳。以蔵と同じように大正浪漫を感じる装いの彼女は、間違いなくサーヴァントだ。雰囲気で分かる。これは...主人公属性である。

「なんじゃあ、きさん。幕府の犬か。は、こんなところで良い御身分じゃのう」

「セイバーも割と良い御身分だよね?」

すぱこーん!日本刀がクリティカル!

「ほいで、どうした。一人っちゅうわけじゃ無いじゃろ」

セイバーは葉子を無視して話を進めていく。美少女は呆れた風に息を吐いて「沖田さんは社員旅行中なんですけどね」と手を左右に振る。馬鹿らしいと言わんばかりのハンドジェスチャーだ。
社員旅行?どこの?新撰組にあるのか?社員旅行が?話を詳しく聞きたかったが、聞けば話の腰を折るなと叩かれることが察される。閉口できる葉子は偉いと思う。

「土方さん!御用ですよ!」

美少女─────新撰組一番隊組長、沖田総司が叫ぶ。呼ばれて出てきたのは、でか!うわ身長たか!2mくらいあるじゃねーか!どうなってんだよ日本人!新撰組副長、土方歳三である。
葉子は普段、セイバーや坂本さんくらいとしか会わないので、馴染み深い背丈が1.7から8くらいなのだった。そこを9後半はあるだろう色男や、2m級の大男とか見ちゃったら混乱するに決まっていたわけで、正直ビビり散らかしている。

件の男は品定めをするように葉子を見て、特になんか胸の辺りを一瞥したあと、セイバーの顔を見る。そうして何かに思い当たったらしく、ああ、と短く呟いた。それにしてもいい声だと思った。

「何処かで見た顔だと思えば、土佐の人斬りか。いい機会だ、ここで縄に掛けてやる」

沖田ァ!と図体に相応しく馬鹿でかい声が掛けられて、美少女の方も腰に手を掛ける。抜刀か、と警戒すれば、日本刀を通り越して腕はポケットに突っ込まれた。
スッ...と自然な流れでブツが取り出される。そう、もちろん花札である。

「いざ尋常に」

もう突っ込むのも馬鹿らしくなっている葉子は「そうですね」と投げやりに返した。スタンバイフェイズ。ドロー。葉子が親。
そんな雰囲気を感じとったのか、セイバーはギリギリと足を踏み付けてくる。彼がそんなに温泉好きだとは知らなかった。

「それにしても、アサシンが女の子連れって意外ですよね。ド外道で性格も捻くれてるのに。しかも結構かわいいですよ」

「ああ?俺はガキには興味ねえ。だがそうだな...あと五年...いや、無いな」

「土方さんの好みを聞いてるんじゃなくて!アサシンが!女性を!連れてるんですってば!アサシンが!」

「おまんらえい加減にせえよ...この女がただの小娘だと思っちょれるのも今のうちぜよ。痛い目に負うても自業自得じゃわしゃ知らん」

本人を目の前によくその会話出来るな...と葉子は一周回って感心したが、あまりの物言いに少しウケてしまった。確かに、セイバーはかなり外道である。勝つためであれば大抵のことはなんでもやるし、良心はあるけど他人の痛みに疎いから関係無い。
このひと他の人からもそういう評価を受けてるんだな...とじわじわ来ていれば、二度目の殴打が後頭部を襲った。

「おまん、わしを笑うたか?」

笑ってないです。



沖田も土方も幸運D。類に漏れず岡田は論外であるが、葉子の幸運はそこそこに良い。てゆうかだいぶ良い。

薄々気付いていると思うが、岡田以蔵(すきなかお)を引き当てた上、幸運に幸運を重ねて手なづけちゃった葉子はハチャメチャに運が良い。例え末路が破滅だろうと終わりまでは心底幸福なわけであるから、やはり運の良さは振り切れている。

逆に事故物件(やべえやつ)に引かれた以蔵の方は運の無さが露呈している。破滅の未来にも一直線。間違いなく大体この女のせいであったが、以蔵は根が割と馬鹿真面目なので全く気が付かない。隣に居る女は災害級の疫病神なのに。実は一番大事なステータスって幸運だったりするんじゃないかな?

つまるところ、勝敗なんかは最初っから分かりきっているのであった。

「いの!しか!ちょーう!」

すぱーん!と威勢だけは良い声と花札が場に叩き付けられる。
必殺技みたいに言っているが、出来ている役はそれだけなので全く派手さの無い堅実なカードであった。宝具も無し。かっこよく言っただけ。なんの面白みもない勝ち方だった。

「そ、そんな!この沖田さんが負けるはずぐふっ」

「沖田ァ!根性が足りてねえんじゃねえのか!」

彼らの敗因らしい敗因といえば、考え無しの宝具使用だろう。沖田の回転率がいいからって宝具を無駄に回しすぎ。土方も最初っからクライマックスと言わんばかりにジャブジャブ使い過ぎ。なんとなく、新撰組の財政管理はさぞ大変だったろうな...と思ってしまった。
花札はゴリ押しで勝てるほど甘い遊びではない。読み合い、状況判断、そして何より運。...やはり運が一番大切なステータスなのでは?

「く、くふふ、この沖田さんが倒れても、いずれ第二第三の沖田さんが現れますからね...!オルタとか!水着とか!水着とか!水着とか!」

信長公に続き、沖田も負け惜しみで三下みたいな台詞を吐いているが、二人とも結構な大物である。何故そんな小物みたいなことを言ってしまうのだろうか。

「そんなに水着で実装されたかったんですか...」

思わず零せば、吐いた血も拭わないまま天才剣士が距離を詰めてくる。食い気味に噛み付く沖田さんは美少女だったが、あんまりにも目がマジだった。

「当たり前ですよ!?何故にノッブにあって沖田さんには無いんですか!おかしいですよ!ね!ね!土方さん!」

「うるせえぞ沖田ァ!俺はてめえの水着には興味ねえ!」

「土方さんの馬鹿ー!」

埒があかないので、無視してさっさと進むことにしよう。そう提案すれば、セイバーは無言で頷いた。