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「#幼馴染」のBL小説を読む
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始まりの彼女は世界を嘆く
だって彼はそこに居なかったのだから


目覚めたみちるは薄暗い蔵の中であった。
鏡の前で尻餅を付いて、今迄は夢でも見ていたのではとぼんやりする。
だけれど右手に大事に握り締められた冊子を見てしまえばそんなことは思える筈も無かったし、何よりみちるの霊圧は以前よりずっと強い。

外を見ても時間の経過などは見られず、やはりみちるは戻って来たのだと思う。
それならばとパッパと掃除を済ませて歩いていれば、タイミングを見計らっていたらしい京楽さん...ではなく、京楽。手をヒラヒラとさせてみちるを呼び止めた。

何か用事があったかと言えば記憶に無い。
未来で結構な日数を過ごしていたので、来る前に何を話していたか思い出しづらい。
それを隠すように黙って付いて行けば、聞かれても無いが彼はベラベラと喋る。よく回る口である。

半ば呆れつつも聞いていたみちるは、怪訝そうに京楽を見た。困った風に視線を逸らした彼は、友人を紹介したいのだと言った。
ヒゲモジャロング...ではなく、控えめな髭に若者らしい短髪。彼は大成するとみちるは知っている。

「前に大型ホロウが出たでしょ、あの時みちるちゃんに助けてもらったんだって」

へえ、と生返事を寄越すが、その虚を未来から持ち込んだのは自分だったのだよな、と頭が痛くなってくる。
過去と未来は結び付き、大抵の悪いことは結構な頻度で己の所為であった。反省が必要である。
指の中でクルクルと短剣を回せば、少し驚いた顔の京楽がじっと見つめてくる。なんだ、と返せば不思議そうに彼は呟いた。

「みちるちゃんいつのまに始解を?」

「まあ、ちょっとね」

ふうん、と彼は少し訝しげであったけれど、もっと重要なことが有ると一旦置くことにしたらしい。
そうそうこいつこいつ。紹介するよ。春水はそう言って、男を指差す。知らないのに知っている。記憶のものより随分と幼く映るが、みちるは彼を知っている。

未来の彼よりも、少し落ち着きが無さそうだ。若いってすごいな、とまじまじ見る。
彼が少しだけ困ったように視線を彷徨わせたけれど、みちるは大変ずるいことに彼の気持ちを知ってしまっている。きっと言われなければわからなかったが、正直者の彼のせいで知ってしまっているのだ。
そしてみちるの態度が彼を困らせているのも分かってしまったので、右手を差し出す。

「私は、みちる」

にこやかに微笑んで手を握れば、これからの先が見えてしまった。とても優しそうで穏やかそうなヒト。

みちるは数度瞬きをして、記憶のものよりもずっと若い顔を見やって、笑った。
ああ。私の運命は、ここから始まっていたのだ、と。