「‥なんつーか、いろいろと頭の痛い話だなぁ」

パラパラと分厚い書類の束を不真面目に流し見ていた太祈は、小さく喉を鳴らしながら呟いた。
一通り現状の報告をし終えたばかりの志良は、それに眉間の皺を寄せて目を細める。

「おい、何笑ってんだ。他人事じゃねぇんだぞ」
「いや、まあ‥そうだけど。なんともアレコレ上手く出来てるもんだと思ったら、ついな」
「‥あ?感心でもしたって?」
「はは。ま、そんなとこか」

乱雑に書類が積み上げられている机の上へ、バサリと手の中の書類を放り投げる。
はらはら、その中から一枚はぐれるように床へと舞い落ちたそれを拾い上げて、志良は苦いものを顔に滲ませた。
何枚にも渡る堅苦しい文字の羅列は、要約してしまえば厄介払いのために人事を変えたと記されているだけのものである。
有りもしない疑いや噂で、太祈と同列の地位に立つ人間が同時期に複数人、地方へ左遷されたり厳しい処罰を下されていた。

「年寄りどもは、見せしめがお好きなんだろうよ」
「お前な‥こんなのもう好きだ嫌いだの話じゃないし、明らかに圧力をかけてきてるとしか思えないだろ。この顔ぶれが分かんねぇとは言わせねーぞ?」

渋い顔の志良に詰め寄られ、太祈は苦笑いを零すと誤魔化すような素振りで頭を掻いた。
その暗に返す言葉を察してか、志良は皮肉たらしく口を開く。

「下手な動きは、自分の首を絞めるだけだぞ」
「‥‥まあ、そうだろうな。でも、だからこそ今やるべきっつーか、」
「なあ、大佐殿。このタイミングで、お前だけが昇格した。‥作為的なものしか感じないだろ?」
「‥‥‥‥」

遮るようにして志良に強く言われ、太祈はため息混じりに口をつぐんだ。
確かに、言われた通りだった。
不自然なタイミングで、不穏な動きがそこかしこから感じられる。
次はお前だ、と示されているように思うのも、処罰対象となった面々が全て自身と親しくしていた者ばかりだったからだ。
何か少しでも問題視されるような行動を起こせば、いわれのない罪状で裁かれるのは、免れられないのかもしれない。

「‥‥小柳中佐は、心配性だこったねぇ」
「おいコラ、こっちは真面目な話をしてんだよ」
「‥そーか?おれも真面目な話をしてんだけどなぁ」
「ふざけてんなら蹴り倒す、」
「あらあら。そりゃあ怖いな、死んじまうわ。頼むから止めておくんなんし?」

茶化して笑うと、志良は舌打ちをしながら拾い上げた書類をぐしゃりと丸めた。

「俺は‥ここまで来て躓くのはご免だぞ、太祈」

そうして無表情に太祈めがけて投げられた塊は、しかし触れそうなほどすれすれの位置を通り抜けると、真っ直ぐに後ろの屑籠の中へ吸い込まれていく。
身動ぎもしなかった太祈は、目尻を下げて鷹揚に笑った。

「‥安心しろって。お前らは、奴らの好きにさせねぇよ」








太祈と志良/大正/parody
2012/02/12 01:23



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