それは歪んだ愛




ある晴天の昼間。



河辺を歩いていると、ふと目に止まった番傘。


こんな日当たりのいい日に傘をさしてるやつなんて、怪しい奴に決まってる。


関わってはいけない。




ゆっくりと後ろを通り過ぎようとした。




「ねぇ、君闇竜族の生き残りの子でしょ?」




まさか気づかれるとは思わなくて、思わず心臓が口から飛び出そうになる。




「ちょっと、手合わせしてくれない?」



そういって立ち上がった男はにっこりと貼りつけたような笑みを浮かべる。



「アンタ、夜兎族でしょ?勘弁して。」



夜兎なんて相手にしたらただじゃ済まない。
いくらあたしでも好き好んで相手にしたい天人ではなかった。



「別に、殺そうとか思ってないよ?ただ一度手合わせしてみて、君が強かったら、俺の子産んでもらおう
かなって。」



................どこか頭に虫でも湧いてるんだろうかこの男は。


あたしがどこか冷たい目でみていると、ふと男の姿が消えた。



来る




シュッ



っと音を立てて手刀が頬のぎりぎりのところを過ぎていく。頬にはうっすら赤い線


すかさず蹴りを返すと男の腹にクリーンヒット。



飛ばされそうになった男だが、すぐに体制を整えるとあたしの腕を掴みパンチを一発。



頬に鈍い痛み。一発が重い。



「痛てぇんだよこの野郎がっ!!!」




あまりの痛みにイライラが限界を超えた。



男がつかんでいる腕を無理やり外すと勢いよく頭を掴み地面にたたきつける。
そのまま横の腹を蹴り、男のからだは宙を舞う。



だがそれだけでは終わらない。


空中にいる男にさらにアッパーをくらわせ、更に空高く身体を追いやるとそのまま大きくジャンプ。


そして男のみぞおちに向かってかかと落としを決める。




大きな音をたてて、男の身体が地面にのめりこんだ。



「はぁ......」





動かなくなった男を一瞥すると、大きくため息をついてそのままその場を立ち去ろうとした。





「ねぇ、」




しかしそれは叶わない。
男の声がしたかと思うと地面にのめりこんでいたはずの男は名無しのすぐ目の前にいた。



「ホントに強いんだね。ますます君が欲しくなっちゃった。」



先ほどから変わらないこの笑顔があたしをイライラさせる。


すると男は突然黙り込んだ。首をひねりながらなにかいろいろ考えているようだ。

そんな男を怪訝そうに見つめていると、ふと、男はなにかを思いついたかのように手を叩いた。




「そうだ、ねぇゲームしない?期限は一年間、俺と闘って俺が勝ったら君が俺のものになる。もし君が勝ったら
俺のこと好きにしていいよ。」




つまり、これから一年間こいつに会ったらわざわざ闘わなくちゃいけないってこと?




「やだよ、面倒くさい。第一あたしになんの利点があるわけ?」




勝ったって特にいいことないじゃない。




「もちろんあるでしょ。勝てば俺に付きまとわれないで済むんだよ?別に付きまとわれたいなら別だけど。」



「どちらにせよ、面倒くさいじゃない。言っとくけど、あたしは戦わないからね。」




あたしがそういうと、男は飄々とした顔で「ふーん。」と呟く。




「でも俺に会ったら結局戦わなくちゃならなくなると思うけどなぁ。まぁ無抵抗で俺のものになってくれる
ならそれでもいいよ。」




「アホか!じゃぁあたしはなるべくあなたに会わないように逃げ続けます!じゃぁね。」




こんな頭のおかしい奴に構ってる暇はない。



こちとら正体隠して頑張って食いつないでるんだから...貧乏暇なし!




「ってか、なんであたしが闇竜族だって知ってるわけ?!」



「なんでも知ってるよ、名無しのことなら。」



気持ち悪い!!!!絶対ストーカーだこいつ!!




ヤバい、この笑顔を見てると鳥肌が...!



てか....



名前まで知ってるー!!!!!!!






でももうこの際突っ込むのやめよ。また気持ち悪いこと言われそうだから。




「今度こそほんとにじゃぁね。もう二度と会わないように祈っとく。」




「俺はすぐにでも名無しに会えるように祈っとくね。」



いちいちイラッとくる発言が多くて、あたしは立ち去ろうと男からそむけた顔をまた元に戻す。






「言っとくけどね、あたしがあんたを好きになることなんて絶対ないから。」



「へぇ..そう。でも俺は好きだよ。」



はぁ....と大きなため息が出る。全然話が通じてない。



「もういいよ、じゃ。」




振り返ったらまたあのうざい笑顔を見る羽目になるから、さっさと帰ろう。










「絶対好きになんない...ね。」








それでも俺は君が好きだよ







(俺は、ずっと前から君を知っていたんだよ。)






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