「エメットさんって天使みたいですよね」
「うん?どゆコト?」
昼の休憩時間ぎりぎりになって休憩室にいるのは私とエメットさんだけになった。設置されている机に向かいあわせに座って
目の前で紅茶を啜っているエメットさんになんとなしに話しかけるとニッコリ微笑まれる。
天使の笑顔と評判なその表情は女の子専用で、事実それで騙される子も多い。
「全身真っ白でさらさらの金髪でその笑顔。天使って呼ばれるのも納得です」
「うれしいネ。ボクってば幸せを運ぶangel?」
「ルシファーですね」
「ソレ堕天してるよネ」
天使の笑顔って言っても私は騙されないけれど。だってコイツはただの女好きでテキトーに女をひっかけては飽きたらポイ、の最低男だもの。
今だってニッコリしてるけどその左頬には逆上した女にやられたであろう引っ掻きキズが真新しい。そのキズを冷めた目で見やり、これまた冷めたコーヒーを啜った。
「見た目は天使だけど中身は傲慢な悪魔。エメットさんにピッタリじゃないですか」
「上司を悪魔扱いだなんてナマエってばワルいコ」
そう言ってなお笑顔を崩さない上司に多少イラッとする。こっちはアンタの本性知ってるんだから
「営業スマイルはやめてください」
「スマイル0円ってイイコトだと思うケドな」
「エメットの場合安売りか押し売りですよ」
どれだけトゲの含んだ言い方をしてもエメットさんは「ひどいナー」なんて言いながら全く気にしない様子で相変わらずニコニコ笑っている。
むしろさっきよりも笑顔に磨きがかかっている気さえする。というかこっちを見てニヤニヤしている。
「なんで貶されてるのに笑ってるんですか。Mなんですか罵られて悦ぶ性癖なんですか」
「ナマエちゃんてば辛辣だネェ」
「否定はしないんですね」
なぜ私が仮にも上司であるこの人にこんな物言いをするのか、
単刀直入に言えば、好きだから。
「もう、ナマエったらスナオになればイイのに」
「素直な気持ちをぶつけているまでですが」
好きだからこそ、素直になれないというかそもそもこんな女たらしの最低男を好きになってる時点で不本意である。
飲み終えたマグカップを片付ける為に少し荒々しく立ち上がる。
「それも片付けますから貸して下さい」
「ン、ありがと」
一応上司であるし、立ったついでにエメットさんのカップも受け取って片付けに行く。
さっさと洗って戻るとエメットさんの姿はなかった。
もう休憩時間も終わりだから仕事に戻ったんだろう。そろそろ自分も業務に戻らねば。
*
「あー、ナマエかわいいナァ!」
「うるさい愚弟。そんなに愛しいならさっさと付き合うなり強姦するなりすればいいデショウ。何故わざわざ傷をつけられるのデス?」
「強姦はだめデショ。ナマエが嫉妬してくれるからつい見せつけちゃうんだよネー」
「…そのうち見棄てられマスよ」
「ありえないネ。ナマエはボクのものなのは決定事項だし」
「随分と傲慢デスね」
墮天使はにっこりと笑った。
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天使な悪魔。
傲慢な天使