潮の香りとソーラーパネルが敷き詰められた道が特徴的なこの街、ナギサのジムリーダー、デンジに対する皆の評価はこうだ。


“顔はいいけど変人”


金髪がよく似合う整った顔は大概の人が認めるほど綺麗で、
だけど暇をもて余す彼は機械をいじってばかりで時にジムの改造で電気を使いすぎて街を大停電にしたりする。
その度に被害を被る住人は呆れて、しかし親しみも込めて変人、と呼んでいる。




まぁ顔がいいっていうのは結構なことだから、彼に惹かれた女性達がひっきりなしにもてはやし、ジムにやってくるわけだ。

とどのつまり、彼はモテる。




だけどシンオウジムリーダー最強を誇る彼にそう易々と勝てる人なんてなかなかいないものだから

つまらないバトルばかりで彼は退屈しているのだろう。




「またサボりですか…」


「悪いな。たぶん灯台に行ってると思うんだけど…」


「オーバさんは悪くないですよ」

まぁ私も彼の顔に惹かれたミーハーの1人なんだけれど。
とはいえそれだけでジムにおしかけるほど熱狂的でも、
弱いくせに挑むような常識知らずでもない。

私はジムバッジを7つ集めてここにきたのだ。最後のバッジを手にすべくここにやってきて早3ヶ月。その間なんども挑戦したのだがまだ勝てていないのである。
もちろん勝ちたいがデンジとバトルし続けられてうれしかったりもする。

今日も今日とて挑みにきたが当の本人は不在らしい。
こんな感じで仲良くなったオーバさんと世間話に花を咲かせる。



「しかしナマエちゃんもがんばってるね。もうオレとバトルしてもおかしくないレベルだし」


「私水タイプ中心なので相性悪いんです…。今さらほかの子を育てる気にもならないですし」




そう。私の手持ちは5体のうち4体が水タイプなもんだから電気タイプの使い手であるデンジとは相性が悪い。一応電気対策にヌオーはいるけれどすばやさが低くてレントラーのこおりのキバにやられてしまう。



「おかげで3ヶ月でみんなレベル10ずつくらいあがりましたよ。そろそろ勝てる気がします」


「そりゃスゴいな!オレもはやくナマエちゃんとバトルしてぇ!」


「私もはやくオーバさんとバトルしたいです」





強い人とバトルしたいと思うのはトレーナーの性。わくわくしながら元気に答えるとオーバさんが「あ、」と声をあげた。


視線が私の後ろを向いてたからそれに倣って振り返ると、顔はいいけど変人の彼がいた。



「デンジ!ナマエちゃんが挑戦だぜ」



「…見りゃわかる」


そう言ってジムに入ってったデンジはこころなしか機嫌が悪そうだった。普段から表情が乏しいから微妙に、だけど。




「あっちゃー…。まぁアイツにはちょうどいいだろ。ほらナマエちゃん!がんばってきな」


オーバさんに背中を押されてジムに足を踏み入れるとオーバさんは手を振ってから去っていった。


よくわからないが当初の目的であるデンジに挑む為、装置に足を踏み入れる。ラッキー、前回と仕掛け変わってない。
ひまつぶしにジムを改造するデンジのせいで毎回たどり着くのに苦労するが今回はすんなりと行ける。



「あ、ナマエさん。今日も挑戦ですか。がんばってくださーい」



もうすっかり顔馴染みになってしまったトレーナーさん達と挨拶をかわしながら進んでいく。






「今日もお願いします!」


気だるげな表情のデンジにあいさつするとバトルはすぐに始まる。もう恒例行事なので前口上はいらない。





「………」


でもいつもはここでああ、とかいくぜ、とか言ってモンスターボールを投げるのに今日は黙ったまま動こうとしない。



「デンジ?」



「あ?ああ…いくか」




声をかけるとようやくモンスターボールをとりだしてレントラーがでてきた。










────




─変だ。


バトルは一見いつも通りなんだけど、おかしい。



たぶん…というか確実に手を抜かれてる。



「ライチュウ、戦闘不能!」


やっぱり。今ライチュウに10まんボルトをくらってたら私は負けていた。なのにデンジがライチュウに下した命令にでんこうせっか。
体力の少ない私の手持ちに先制して倒そうとしたけど、わずかに及ばなかった…みたいな演出のようだ。





その後にでてきたエレキブルにも決定的な命令は下されず、私は勝利した。



3ヶ月も挑み続けてようやく勝利した。


私を見守っていた顔馴染みのトレーナーたちも歓声をくれる。





なのに、うれしくない。






「とうとう負けたか…ほら、ビーコンバッジ」



デンジが白々しくバッジを差し出してくる。あんなに欲しかったバッジなのに、



「………いらない」



差し出されたバッジを押し返し、振り返って走り出す。


デンジの呼び止める声が聞こえたがかまわず逃げる。

トレーナーさん達のどよめきも無視して私はジムの外にでた。





「あれ、ナマエちゃん。どうだった?」



ジムを出てすぐに見慣れたアフロが目に入った。


こちらにかけよってきたオーバさんに思わず抱きつく



「えっ、ナマエちゃん!?どうした?」


慌てふためくオーバさんには悪いけど溢れてくる涙を隠すように顔を埋める。

オーバさんは困惑しつつ、心配そうに声をかけてくれる。




「デンジになんかされた?」


ビクッと身体が反応する。


「手加減…された…」


鼻をすすって恨みがましくそう言うとオーバさんは呆れたようにため息をついた。




「なんでアイツはバカなんだ…」




オーバさんは片手で頭を撫でて、もう片方の手で電話をかけだす。



「あ、デンジ今すぐ出てこい。」



一言だけ言って容赦なく通話を切る。デンジがくるの?



「あの、オーバさ」

「ナマエちゃんも逃げないように」


急いで離れようとしたが腕を捕まれ逃げられない。














デンジはすぐにやってきた。相変わらず気だるげな表情のままで、思わず目をそらして地面を見つめる。




「デンジ、お前手加減したって?」



「…してない」


「嘘つくなよ。一生懸命努力してる相手に失礼だろ」




オーバさんがデンジに説教するのはいつものことなのに今日はいつもより真剣な空気だった。

2人の顔は見えないけどなんとなくピリピリしている気がする。




「なんでそんなことしたんだ?」





オーバさんの問いかけにデンジは答えなかった。

しばらくしてようやく口を開いたデンジはわけのわからないことを口にした。



「当て馬とか、ヤだし…」




「「はぁ?」」



思わず顔をあげる。オーバさんと声がかぶった。



「お前なに言ってんの?」


言いたいことをオーバさんが言ってくれる。




「はやくお前のとこ行きたいナマエをひきとめるとか、ヤだし」



言ってる意味がわからなくて言葉を失っていると、理解したらしいオーバさんが状況を説明してくれる。

「おいおい待て待て。お前の思考回路がおかしいのは知ってるがそれはおかしい。…つまりお前は、ナマエちゃんがオレのこと好きだと思ってるわけ?」


はぁ!?と声をあげてデンジをみると拗ねた子供のような表情をしている。


「お前ら付き合ってんじゃん」


「ちげーよ!!」


もうわけわかんなくてなんと言ったらいいのかわからない。



「まだ付き合ってないワケ?」



「だからちげーって!ナマエちゃんが好きなのはお前だから!!」








空気が固まる。


自分の発言に気がついたオーバさんはしまった、という表情で目をそらした。




「オーバさん!?」


「ごめんってナマエちゃん!!」




ぽかぽかとオーバさんを叩いて空気を誤魔化そうとするが
空気にも人の気持ちにも鈍感なデンジは





「…マジ?」


しっかりとこちらを見つめていた。

そんな整った顔で見つめられたら心臓がもたない!




「なしなし!聞かなかったことに、」

「オレは好きだけど」




「…は?」










思わず固まっているとデンジに腕をひかれ、ジムの方に足を進められる。
オーバを見るとなんともいえない笑顔でこちらに手を振っていた。











「オレは、ナマエのこと好きだけど」





もう1回さっきの言葉を言われ、

「お前は?」




少し顔を赤くしたデンジが振り返る。もう駄目だ。



「好きです…」






呟くように答えるとデンジはそうか、と満足そうにもらし





「じゃあ結婚するか」



とさも当然のように言ってきた。


「は!?急になに言って、」



「好き同士なんだからいいだろ」



さらりとプロポーズ?したのにやっぱり気だるげな表情の彼に







顔はいいけど変人、ってぴったりだなぁ、と思った。














─────



初デンジ夢です。


デンジは頭いいんだけど頭良すぎて思考がぶっとんでるといいなぁという願望←