サブマスでこどもの日




「これは一体どういうことですか」


私は今日、いつも通りギアステーションに出勤し制服に着替え書類と向かい合い、サブウェイマスターの判子をもらう為に執務室へとやってきた。


ノックをしても返事がなかったので不思議に思って扉を軽く開けて中を覗くとクラウドさんにカズマサくん、ラムセスさんやシンゲンさん等、鉄道員が何かを中心に囲むように勢揃いしていた。


こっそり近づいてその何かを覗いて私は絶句した。


そこには2人の小さな子供がいた。普通なら迷子かなにかかと疑うかもしれない。でも小さな身体で周りを見上げる子供はどうみても、


「ボス…?」


幼い顔だけどその三角の口元はどうみてもサブウェイマスター両ボスのもので。呆然と口にした言葉に漸く私が来ていることに気付いた鉄道員達がこちらを振り返った。もちろん両ボスも。




そんなわけで私は冒頭の言葉を溢したのである。




「えへへーボクちっちゃくなった!」

「あっ、クダリずるいですよ!」


「俺らが来たときにはもうこんな感じやった」



私の腰あたりまでしかない小さなクダリさんが私に抱きついてくる。そしてノボリさんもそれに続く。クラウドさんの話を聞くとお2人は今朝からこんな感じで原因は不明。変わったのは見た目だけで精神的な変化は無いそうだ。



これは一体どういうことか。

私の腰にしがみつく2人は自分の身に起こっていることを受け入れているのか。きゃいきゃい騒いで楽しそうだ。なんでそんなにご機嫌なんだ。


しかし、



「今日はボクらお休みしてもいいよね?」


「この姿でお客様の前に出ることはできませんしね」



クダリさんはともかく、ノボリさんまでうれしそうに言う姿を見て
そういえば今はゴールデンウィーク期間中でいつもより挑戦者やギアステーションの挑戦者が多くてお2人はなかなか休む機会がなかったことを思い出す。




いつもお客様の為にがんばっている2人だからこそ、こんなときくらい休んでもバチはあたらないだろう。



「そうですね。たまにはゆっくり休んでください」


腰にしがみつく2人の頭を撫でると照れたように笑う。
いつもは見上げていた2人を見下ろしているのは不思議な気分だ。


「ねぇねぇ抱っこしてー?」


クダリさんが両手を広げて天使の笑顔で見上げてきたから思わずきゅんとして抱き抱える。


「もう!クダリさんなんでそんなにかわいいんですか!」


えへへーと笑うクダリさんに見とれているとノボリさんに裾を引っ張られる


「ノボリさん?」


「クダリばかり、ずるいです…」



拗ねたように視線を逸らすノボリさん。やばい、かわいい。
しゃがみこんでノボリさんの頭をわしゃわしゃ撫でると顔を赤くしながら照れている。



「なんや親子みたいやな」


クラウドさんの台詞に周りの鉄道員達も頷く。



確かに、目の前で甘えてくる2人は無邪気でとても可愛らしい。母性本能をくすぐるってやつか。


「こんな子供なら欲しいですねー」





素直な感想を伝えたつもりが、2人の目が妖しく光る。



「ノボリ、聞いた?」


「ええ、はっきりと」


先ほどまでの無邪気な姿は何処へ。なにか毒気を孕んだ笑顔を向けられる。
思わず手を止めるがもう遅い。


「ボクらの子供、きっとボクらに似る!」


「是非とも子作りいたしましょう」



見た目は子供、中身はセクハラ上司だ。
せっかくかわいかったのに残念。


「子作りって…ボス達今子供じゃないですか」


「大丈夫!明日には元の姿に戻る!」


クダリが笑顔で断言する。というか笑顔で人の胸揉むな。
とりあえず引き離してクラウドさんに明け渡す。



「なんの根拠があってそんなこと言えるんですか」


「今日は何の日かご存知ないのですか?」


質問に質問で返される。ノボリさんに言われて頭の中でカレンダーをたどる。今日は5月5日、つまり


「こどもの日…ですね」



「そういうことでございます」





ああ、なるほどこどもの日だからお2人は子供の姿になったと。





「意 味 が わ か ら な い !!」


満足気な顔で尻を揉むノボリさんをひっぺがしてシンゲンさんに明け渡し、私は仕事を始めることにした。






2人の声が聞こえたけど気にしないことにした。






まったく、顔はいいのに残念な上司である。









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