5月15日 晴れ


自分で設定した目覚ましの音に苛立ちながら目を覚ます。
うつ伏せの状態から腕を伸ばそうとして崩れ落ちる。


「んぇ…頭いた…」


謎の目眩に驚いて声を出すと喉がイガイガしててしゃべった後に咳き込んでしまった。


「んー…あ、あー…ゲホッ」




間違いない、風邪をひいた。



原因はなんだと痛む頭を抑おさながら記憶をたどればそういえば今月は典型的な5月病から食事を疎かにしてだらだらとやる気のない不規則な生活を送っていたことを思い出す。


なんてこった。ただの自業自得じゃないか。



健康には自信があった為、正直家には体温計すらおいてない。
1人暮らしで体調崩すというのはなかなかキツイものだ。





とりあえず枕元に置いていたライキャスに手を伸ばし、重苦しい頭を支えながら今日は休むという連絡をする。
担任からは真っ先にサボりかと疑われたが声が掠れて咳もしたために珍しく心配された。クダリとトウヤくんトウコちゃんにもメールをし、ノボリはスルーしてライキャスを放る。



ダルい身体から力を抜いて息をつけばすぐに眠気がやってくる。寝れば治るだろうと思考を手放した。

















―ピンポーン

来客を知らせる軽快な音にゆっくりとひっぱられるように意識を取り戻す。ぼんやりと天井を見つめてから思い出したようにライキャスを手に取ればお昼をまわっていた。
そういえばお腹が空いてきたかもしれないなぁと考えていたら再びチャイムの音が鳴らされて意識がはっきりする。



慌てて起き上がり、覚束無い足取りのまま玄関へと急ぐ。


鍵をあけて目に入ってきた人物に、とうとう私は幻覚が見えるようになったのかとまばたきを繰り返した。



「いやいや、ありえない。これはきっと幻覚だ。いやもしかしたら夢か?明晰夢ってやつかそうかじゃあ今の私は空も飛べるはず」


「何をおっしゃっているのです。熱で脳まで溶けたのですか」




かわいそうな目でこちらを見てそう吐き捨てた人物は紛れもなく本物の、


「ノボリじゃないですか…」


「はい。ノボリでございます」


「あ、なんかサ○゛エさんみたいだね」



熱に浮かされながらのボケはノボリのぜったいれいどによって消された。気持ちちょっと熱下がったんじゃないかと思うくらいの冷めた目だった。




「で、なんの用?今日はサボりじゃないし連絡もしたよ」


咳を手で抑えながらそう尋ねるとノボリは鞄からなにやら取りだし、


「こちらを届けにまいりました」


そう言って差し出された紙を見ると、新学期の始めの頃にやった健康診断の結果だった。




「…わざわざこれだけ届けにきたの?」


「ええ。」



もう一度結果に目を通す。
受けた項目は概ね良好。白血球の数値が高いくらいか。
特に変わったことはない。

だからこそわざわざ届けにきてくれた理由がわからない。






「今、お昼だよね?」


「ええ」


「学校は?」


「昼休みのうちに戻ります」



時計を確認すれば昼休み終了まで30分程度。
ノボリはどうやらそらをとぶを使ってやってきたらしい。一体どのポケモンだろう。



「そっか…」


「ええ」



一通り質問を終えると沈黙がおとずれた。ノボリはどこか落ち着きなく視線を泳がせている。一体どうしたのかと聞こうとしても熱のせいで頭が朦朧とする。本格的に立っているのが辛くなってきた。
こういうのはなんだけどはやく寝たいので用が終わったんなら帰って欲しい。
今は本当に体調が悪い。


「ノボリ、私、もう寝ていい…?」


「あ、ちょっとお待ちください!」


思いきって本音を溢すとノボリは慌てて再び鞄をあさった。
ガサガサと音を立てて取り出されたのはスーパーの袋。
ノボリがその中に入っているものを見せるように広げてきた。



「…ヨーグルト?」



中に入っていたのは様々な種類のヨーグルト。プレーンからアロエヨーグルト、いちご味にモモン味まで。


「どうしたの、コレ?」



まじまじと見つめながら問いかけるとノボリはちょっと気恥ずかしそうに



「今日はヨーグルトの日だそうです」








ちょっと顔を赤くしたノボリを見ながら言葉の意味を考える。
今日はヨーグルトの日だそうで。

ええっとそれはつまり、


「今日はノボリが日付シリーズを代行してくれたワケだ」




「風邪で休みだと聞いたもので…。調べれば今日はヨーグルトの日だと。ですから差し入れにですね…!」




あわあわと恥ずかしそうに説明をくれるノボリ。そうか今日はヨーグルトの日なのか。



「はは、ありがとうノボ…」





照れるノボリに近づいてお礼を言おうとしたら意識が飛びかけて倒れそうになる。


「大丈夫ですか、ミハル様」


「うー…もう無理。寝たい…」


「…仕方ありませんね、ほら肩につかまってくださいまし」






ノボリに半ば引きずられるようにしてベッドに戻る。睡魔はすぐにやってきた。


重力に身をまかせて意識を手放した。

















次に目を覚ました時にはノボリはいなくて、窓の外は夕焼けに染まっていた。ライキャスを開くと何件かメールがきていた。




心配してくれたメールたちを読みながら、ノボリが入れてくれたらしいヨーグルトを冷蔵庫から取り出してスプーンですくう。







「うん、うまい」












今日がヨーグルトの日でよかった。
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