空からやってきた真っ白い彼は夕焼けに照らされてオレンジがかったコートを翻し、ゆっくり近づいていった。


その姿を見てツグミはまるで安いドラマでも見てるようだ、とどこか他人事みたいに思っていても
涙腺は感動に震えていた。



「ツグミ、間に合った」


目の前にやってきた背の高い彼を見上げるように見つめて、何を言えばいいのかわからないけれど


「クダリさん、仕事はどうしたんですか…?」


とりあえず気になったことを尋ねると少し困ったような笑顔で


「ノボリに頼んできちゃった!」


と言うもんだからなんだかつられて笑ってしまう。クダリさんの笑顔は本当に人を惹き付ける。




「今一番忙しい時間帯じゃないですか、ノボリさん倒れないといいですけど…」


昨日なんだか疲れていた様子を思い出して心配になる。


「うん、後でゆっくり休んでもらう。…それより、ツグミに言いたいことがあって来た」


「な、なんですか」


急にノボリさんみたいに真剣な表情されたから思わず身構える。


「ツグミのお父さんから手紙をもらった。ツグミをよろしくって。厳しく指導してやってくれって」

「え、お父さん?」


構えを解いて思わず聞き返す。


ギアステーションで働いていたことがバレていたのか。
というかよろしくって…



「ツグミ、迷惑なことなんてひとつもないよ」








クダリさんにそう言われて思わず沈黙する。






迷惑をかけないように、







2人がクビにされたりしないように…



でも父はよろしく、って

















つまり、



「じゃあ私、辞める必要なかったんですか!?」



「うん」




驚きやら恥ずかしさやらで言葉が出ない。

クダリさんは相変わらずニコニコ笑っているし、乗車券を受け取った船員さんはぽかんとしているし、少し離れた所から母に見られているし
他のお客さんは別の乗り場から次々乗船していってるけど、ちらちらこちらを見ている。





「な、なんだかなぁ…」


とりあえず顔を隠してみるがなんの解決にもならない。
それでも恥ずかしさが幾分マシになるのでそのままにしようとするが、左手をクダリさんに取られてしまう。



「ク、クダリさん…?」


「ねぇツグミ、これでイッシュから離れる理由はなくなったんだよね?」


「え?まぁ…そういうことになりますね」



必死で目を逸らしつつ、聞かれたことに答えると自分が言ったことなのに
ああ行く必要は無いのか、と納得していた。



「それでも行くの?」


空いていた手で頭を掴まれムリヤリクダリさんの方を向かされる。存外クダリさんの顔が近くにあって思わず視線が泳ぐ。


「そうですね…もう仕事辞めちゃったし乗車券も渡しちゃいましたし」


傍観していた船員さんも頷いている。







「行かないでよ」











泳ぎ続けていた視線がピタリと止まる。
おそるおそるクダリさんを見るが今度は逆にクダリさんの視線が泳いでいる。
その頬があんまり赤くて思わずつられて頬に熱が集まるのを感じた。




自分でもアホ面をかましているんだろうと思う。何も言えず黙っていると暫しの沈黙の後、



「あのね!ボクは、ツグミのことが好きなの!だから行ってほしくない「ポーン。まもなく、出航いたします」



船のアナウンスを聞いて慌てて船に乗り込む。




「…え?」


アナウンスに気をとられてしまったけれど今すごいことを言われたことに気づいて振り返る。




そこにはとてつもなく不満そうな顔のクダリさん。



「クダリさん、もう一回言って下さい!」


海を挟んで確認の為に声をかけると







「イッシュに戻ってきたらもういっかい言う!だから戻ってきてね!」






そう言ってそっぽを向かれてしまった。でもクダリさん、私目いいんですよ




真っ赤な耳をした彼の後ろ姿にありったけの想いを込めて叫ぶ。







「迷惑をおかけすることがないように、ジョウトで花嫁修業してきますねー!!」











慌てて振り返った彼は一瞬驚いた顔をして、

それから



とびっきりの笑顔を見せてくれた。












待っててねクダリさん!










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