クダリは手紙を見つめながら今頃港へ向かっているであろうツグミのことを考えていた。


父にも認められて、ここを辞める理由なんてひとつもないのに
彼女は土地ごと離れようとしている。


それが彼女の意思だとしても、


「ねぇノボリ。ツグミにいってほしくないって思うの、ボクのワガママ?」



ひきとめてずっと傍にいて欲しいと思うのは赦されないのだろうか。
昼休憩を終えて書類作業に戻っていたノボリはピタリと手をとめてこちらを覗きこんだ。



「ワガママ…ですか。確かにそうかもしれませんね」


「やっぱり…」


「ですが、」


視線を外さないまま、ゆっくり口を動かす。


「アナタは元々自分の本能に忠実です。それを貶す気はありませんし、むしろ長所と言えるでしょう。余計な柵を気にせず自分の思いを表にだせるアナタをワタクシは尊敬しているのです。…自分の望むように動く、それでこそクダリでしょう」



目を細めて微笑むノボリは誰よりも自分のことを知っている。


「ボクが望むこと…」

自分がやりたいこと、好きなこと


「ボク、クダリ。ポケモンが好き。バトルが好き。勝つことが好き。…それと、ツグミが好き!」



今までもやもやしていたけど口にしてみるとパズルのピースがはまるようになんだかしっくりした。それを聞いたノボリは思いっきり口角をあげて笑い、時計に目をやる。


「14時06分…アナタのアーケオスならギリギリツグミ様の元へ行けるでしょう」



「ノボリ?」


「行ってきなさい」



ぐいぐいと執務室から追い出すように背中を押される。


「で、でも」



「仕事の為に欲しいものをみすみす逃すのですか?アナタはいつからそんなに仕事に束縛される男になったんです、もっと大事な責任があるでしょう」


アナタのフォローならもう慣れています、とキッパリ告げられ執務室の扉は閉じられた。






「…ありがとう、ノボリ」





厚意に甘えて走りだす。
地上へ出てすぐにモンスターボールを手にする。



アーケオス、頼むよ。





元気に鳴いた相棒の背に乗り、空へと飛び上がった。


───────





時の流れを告げるように日は傾いて、別れの瞬間が近づいてくる。


ツグミは車窓から覗く空がオレンジに染まってゆく景色をぼんやりと眺めていた。母との世間話をしていても曖昧な返事をするばかりでなんだか落ち着かなかった。


ただ、もうすぐ目的の場所に着くという母の言葉はしっかり耳に届いた。


もうすぐ、イッシュともお別れ。


里帰りなんかはするだろうけどバトルをしない自分はたぶんバトルサブウェイはおろかギアステーションにも行かないだろう。元々接点がなかったんだから、クダリさんに会うこともない。



もう会えないと考えるとふっきれたはずの思いが燻る。


余計なことを考えると胸がどうにも痛くなるから、
首をふって思考をかきけしてジョウトのガイドブックをみて気分を紛らわせた。











そうこうしているうちに港のある街へと着いた。長かった道のりを終えて、外の空気を吸おうと車のドアを開けた瞬間に潮の匂いが風にのってくる。


港に立つと普段海を見ることはあまりないから、その雄大さに心を奪われる。



とても広くて、夕焼けを反射してキラキラと輝く海面は見たことのない綺麗な色で思わず感嘆のため息をこぼしてしまうほど。





「ツグミが乗るのはあの船みたいね」


隣に立った母が港に泊めてある大きな客船を指差す。



「豪華客船だ、すごいね」


「もう乗船する?」





これから長い時間乗りっぱなしになるけど、とつけ足されどうしようかと思いあぐねていると名前を呼ばれた気がした。
一瞬クダリさんかと思って振り返ってみたが誰もいない。

クダリさんがこんなところにいるわけない、と冷静に考えて少し悲しくなった。


「ツグミ?」


「…ううん、なんでもない。もう乗ることにする」



未練がましい自分が情けなくて、はやく消してしまおうと
乗車券を取り出し、船へと近づく。
あと数歩でイッシュの土地から離れる。



3歩…





2歩…





1歩…





「乗車券を拝見いたします」



あとは乗車券を見せて終わり。
もううだうだ考えるのはやめよう、と乗車券を差し出したところで、











「ツグミ!!」





自分を呼ぶ声が大きくて、思わず声のした方を振り返る。
乗車券を受け取った船員もつられて視線を向ける。



空からやってきた色鮮やかなポケモン、そしてその背から降りたったのは白いコートに白い制帽、特徴的なモミアゲ



ずっと意識の真ん中にいたその姿

見間違えるはずがない、




「クダリ、さん…?」








午後16時28分、



ずっと頭の中にいたその人を見た瞬間、思わず涙がこぼれた。




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テーマ「人外ファンタジー」
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