出航まで残り5時間。


ツグミは最後にポケモンセンターに来ていた。



パソコンでダストダスを預ける。本当は連れていく予定だったが知らない土地でバトルを挑まれるのも怖いし、元々父の手持ちなので会えなくなるかもしれないのはかわいそうだと思ったのだ。

それと、



「お母さん、トレーナーカードにとんでもない額が振り込んであったんだけど…」


『お土産よろしくね』



一体どんだけお土産を買わせるつもりだ、と思ったがまぁお金があるにこしたことはない、と開き直ることにした。
そんなわけで大金を持たされた為に下手にバトルをしてたかられるに違いない。




「私がジョウトに行くことお父さんに言ってないよね?」


『ええ、アンタが黙っててって言ったからね。まぁそのうちバレるでしょうけど。そんで?母さんはどこに迎えに行けばいいのかしら?』



「ああ、えーっと…じゃあ、あのホテルの前でいい?」



『アンタがお見合いバックレたところ?』


「うん、そこならちょうどいいし」


『了解。じゃあ1時にそこで』


じゃあねーと言ったところで通話が終わる。



あとは母に港まで送ってもらって、船に乗ったらそれでおしまい。





なんとも言えない気持ちが胸の中で混ざり合ってどうしようもなかった。



なるべく何も考えないように努めてポケモンセンターを後にした。





出航まで残り4時間。




────

「クダリ、食べないのですか?」
執務室で昼の弁当を食べていたノボリは、同じく机に弁当を用意しているにも関わらず手をつける様子のない弟に声をかけた。


「うん、なんか食欲ないや…」


表情は笑っているのにその声には元気がない。買ってきた唐揚げ弁当をただ見つめているだけだ。


「もう少しですね…」


「何が?」


「いえ。ただの独り言でございます…」


「変なノボリ」


「ああそうだ。すっかり忘れておりました、あの方からアナタに手紙がきていますよ」


「手紙?」


─────





午後1時。

出航まで残り約3時間半。


ツグミはクダリと初めて会ったホテルの前に来ていた。


太陽の光を遮るように手をかざして、高い高いホテルを見上げる。
このホテルの最上階ではじめてクダリさんに出会った。


父に腹をたてて、家出のことで頭が一杯だったから何を話していたかは正直あまり覚えてない。ただ嘘くさい笑顔だなって思ったのは覚えてる。


父が席を外してすぐ、私はこのホテルから逃亡した。
罪悪感を感じつつ、解放感に酔いしれていたらクダリさんに呼び止められたんだ。


驚いたけどその時のクダリさんの笑顔が本心に見えたので、ようやく私はクダリさんという存在を認識したんだった。




ギアステーションで働かないかと誘われて。ノボリさんに出会って。メタモンを拾って。


「楽しかったなぁ…」


感傷に浸っているうちに迎えの車がやってきた。




「バイバイ、クダリさん」










─────



同時刻、執務室。


「手紙にはなんと?」


「えっと、先日は娘が迷惑をかけて申し訳ない…聞いた話では娘がそちらで世話になっているとか…いつまでも親に頼りきりでまだまだ子供だと思っていたが、どうやら私が子離れできていなかったようだ、
至らぬこともあるだろうがどうか厳しく指導してやってこれからもよろしく頼む……」



「成る程。あの方は正直苦手でしたがツグミ様のことになると随分丁寧になりますね。素晴らしいお父様です」



「うん。…あれ?ねぇノボリ、これってツグミがここで働くことを公認してくれたってことだよね」


読み終えた便箋を封筒に戻し、ノボリに確認する。



「ええ、そうですね…。つまり」



「ボクらが余計な心配する必要は無くて…。つまり」



クダリは立ち上がって、ノボリを見て


「サブウェイマスターをクビになるかもしれないとか、杞憂だったワケだ…」







出航まで残り3時間。





ギアステーションは少しずつ賑わいをみせていた。


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