時計が深夜0時を過ぎた頃


時間に関係なく供給してくれる人工の灯りの下、
ツグミは少ない荷物をキャリーケースにいれながら1日を振り替えっていた。



お昼ごはんを食べ、午後の仕事も終え、昨日までと同じように2人を手伝って
掃除と書類整理、お茶で休憩。
終始今日で最後、というつっかかりはあったけれどあくまでいつも通り、1日は過ぎていった。


あまりにいつも通りで、自分が離れるなんて嘘みたいな錯覚さえ覚えた。




帰ろうとすれば
最後だからと夕飯も誘われたが明日の準備があるからと丁重にお断りした。そうしないとさびしくて泣いてしまうだろうから。迷惑かけたくないから。


2人とも大層不満そうではあったがごめんなさいと謝るとそれ以上は何も言ってこなかった。



できるだけ心残りのないように
別れが辛くならないように

名残惜しい気持ちを押し殺してさよならを告げた。



なんともあっさりとした最後。


「また会いましょう」
とノボリさんはめずらしく笑って言ったが

“また”とは言えなかった。
また会うとも限らないから。

手を振る2人の表情が切なくて
逃げるように別れを告げた。
事実、私は逃げたのだけど。




寮に着いた途端、自分でも驚くくらいの涙が溢れてきて呆然と立ち尽くす程に。






「よし、荷物詰め終わった!」


これでもうここに私のいた痕跡は消えてしまう。発つ鳥跡を濁さずといったところか。


自分が確かに存在していた形跡を消してしまうのはさびしくもあったが、これも吹っ切るためである。




出航まで残り約16時間


港までは3時間程かかるからこの街にいられるのもあと半日くらいだ。








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深夜にも関わらず、執務室からは灯りが洩れていた。
そこには机に向かうサブウェイマスターの姿。




「クダリ、この書類ミスが多すぎます」



「ごめん、今直す」



両者の机には薄いはずの紙が積み重ねられ、視界を遮る程の高さになっていた。


ミスを直そうと積まれた書類の間から手を伸ばすが一向に渡される気配はない。


「クダリ、少し休んではいかがです?」


代わりによこされるのは気遣いの言葉。


「ノボリこそ。今日も寝ないつもり?」


だがここで甘えることはせず書類を受け取り訂正箇所を確認する。


「ワタクシは慣れておりますから。アナタは徹夜が嫌いでしょう?」




「嫌いでもやらなきゃいけない」



めずらしく真剣な弟の様子にノボリは下がりきっていた口角が僅かにあがるのを感じた。





「良い心がけですね。では飲み物でも用意しましょう。ミスが多いままでは本末転倒ですので」




ノボリの淹れるコーヒーは苦いんだよなぁ、と小さく呟きながら書類の修正に取りかかった。












それぞれの思いを余所に、時間は過ぎ
どんな運命の日でもやがていつもと同じ朝がやってくる。









出航まで残り10時間。






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