皆への報告も済ませ、午前の仕事、諸々済ませたツグミは今日はお昼ごはん何食べようかなー、なんて考えながら職員用の廊下を歩いていた。
「ツグミ!」
お昼ごはんのことで頭が一杯だった為後ろからタックルが飛んできた衝撃に耐えきれず地面とこんにちわ状態になる。
「クダリさん…痛いんですけど」
思い切りうちつけた鼻をさすりながらうらめしく犯人をみやるが当の本人はまったく悪びれる様子はない。
それどころか若干不機嫌そうに、
「ツグミ探した!どこにもいないんだもん!」
そういえばさっきまで忙しなく動き回ってたな、と思い出す。
というか少しは悪びれろ。そして早くどいてくれ、重い。
昨日の今日だから会ったら気まずいかなと思っていたが彼は通常運転のようだ。
「なんかすいません…でも私早く売店行きたいんですけど」
早く行かなければ唐揚げ弁当が売り切れてしまう
朝ごはんが食べられなかったぶん、好きなものが食べたいのに。
やっとよけてもらい、身体を起こす。
「お弁当なら買ってあげるからボクの話聞いて」
そう言って今度は両肩を掴まれ逃げられない。買ってくれるのはありがたいが売り切れたら買えないじゃないか。
「ツグミが決めたことだから、ボクはもう何も言わない。でもボクらはツグミが好き!これはホント!あと何度も言うけど迷惑なんて思ってない!」
いつも笑ってる彼が真剣な表情をしてたから、
「あ、ありがとうございます…」
胸が痛んだのに気づかないフリをしてそう言うのが精一杯だった。
とにかく、お腹がすいてるんだと訴え2人で売店へ向かう。
歩幅を合わせながら会話を始めた。
「明日、何時に行くの?」
「16時35分発の便に乗ります」
「そっか…」
その時間を選んだのは、ギアステーションが非常に混む時間帯だから。見送りなんかで気を遣わせない為だ。
「ここに来るのは今日で最後です」
声が震えそうになりながらそっと告げると規則的な足音が3回響いてから
「そっか…」
小さな声が耳に届いた。
*
しばらく居心地のわるい気まずさが漂っていたが
元来シリアスな雰囲気が苦手な2人は気まずさに耐えきれなくなり、
「唐揚げ弁当売り切れじゃないですか!!」
「あちゃー」
「あちゃー。じゃないですよ!どうしてくれるんですか!私朝ごはんも食べてないのに!!」
売店に着くなりいつもの調子に戻っていた。
「ごめんねー代わりにサブウェイ特製弁当買ってあげる」
「えっ!値段が唐揚げよりも0ひとつ多いあの高級弁当をですか!?」
「それでいい?」
「ブラボー!!」
「じゃあそれ3つ。ツグミ、執務室で食べよう?」
「スーパーブラボー!!」
「聞いてる?」
ツグミは一度食べてみたかった弁当を買ってもらい、上機嫌にはしゃいでいた。
───
ノックもなしに執務室の扉を勢いよく開けるクダリさん。
「ノボリ!お昼買ってきた!」
続いてツグミも入るとノボリさんと視線が合う。
ノボリさんを見るのはあの会話を聞いてからはじめてなので少し緊張する。
「おや、ツグミ様もご一緒で」
どうしたものかと思ったがノボリさんはなんら気にする様子はなかった。
安心してあいさつし、
「あれ、ノボリさん1日でだいぶ疲れてません?」
「そんなことはございません」
目の下に隅をつくったノボリさんは確実に寝ていないようだ。以前よりはマシなようだが。
「今日は私午後仕事すぐ終わりますからその後手伝いますよ」
「それは助かります。最後ならば少々お話しもしたいですしね」
ペンを置いたノボリをみてから給湯室にお茶をとりに行った。
≪どうなりました?≫
2人はツグミが給湯室に行ったのを見計らい、ノボリが紙に言葉を綴った。
「どうもしないよ」
少し声を抑えて答える。
≪引き留めないので?≫
「元々ボクが勝手にやったことだし」
「クダリ、アナタは」
≪ツグミ様のことを≫
「どう思っているのです?」
そう言って紙を破り捨てる。同じ轍は踏まないように。
「ボクは、好きだよ」
「このオレンジ!」
そう言って弁当の中を指差す。
ちょうどお茶をいれて戻ってきたツグミが尋ねる。
「クダリさんオレンジ好きなんですか?」
「うん、でもノボリあんまり好きじゃないって!」
「いえ、オレンジが嫌いなのではなく、お弁当に入っていることがあまり好きではないのです」
「あー、他のおかずに味うつるのとか嫌ですよね」
ごく自然に行われる会話にツグミもこれまた自然に話に加わった。双子の息はぴったりだ。
そしてそのままお昼休憩は過ぎていった。
─────