ぱちっと目が覚めて飛び起きる。

飛び上がって時計をみると午前5時を過ぎたくらい。



「きっかり300分!」



ベッドから降り、ぐしゃぐしゃになった布団には目もくれずコートと制帽を身に付け、仮眠室から飛び出す。




「クダリ、落ち着きましたか?」

執務室では5時間前とまったく同じ状態のノボリが相変わらず書類に向かっていた。



「うん!もう大丈夫!!」


それは良かった、とコーヒーを啜る。徹夜お疲れ!ありがとう!



「でもまだ何も考えてない」


「ツグミがいらっしゃるまであと2時間半といったところですね」

「うん」





ツグミがイッシュを離れるのは明日。
会ってゆっくり話ができるのは今日で最後、自分の中で結論をださなきゃならない。


椅子に腰かけて思考をめぐらせた。








───



夢と現実の境が曖昧なまま、ぼーっと白い天井を見つめていた。



おかしいな、寮の天井はもう少しクリーム色っぽくなかったかな、なんて考えているうちに


やがて脳が覚醒し飛び起きる。


「うっわ寝坊した!!」


時計に目をやると午前7時をまわったところ。いつもより1時間遅く目がさめた。1時間と言っても朝の1時間は結構大事だ。

仕方ない、今日は朝ごはんは抜きだな、とため息をつきながら洗面台に向かう。


顔を洗って歯を磨いて髪をとかして制服を着て髪を整える。
それだけでもう時間がなくなり、急がなければ出勤時間に間に合わなくなる。



ジョーイさんに見送られてポケモンセンターを後にする。



メタモンが肩にいないことにさびしさを覚えつつ、ギアステーションにはあらわれなかった飼い主が現れることを祈った。










──────










「は?辞める?」


「はい。家の事情で急遽ジョウトへ行かなければならなくなりまして」


「それにしたって急だな、いつ行くの?」


「一応…明日にはここを発ちます」


「明日ぁ!?」




なんとかギリギリ出勤は間に合ったが、珍しく遅刻しそうになったものだから心配した上司に呼び止められた。
ついでなのでそのまま自分がジョウトへ行くので仕事を辞めると伝えた。



突然の報告で怒られると思っていたのに上司はただ驚くばかりでおとがめはない。
しかもその上


「いや、ジョウトに行くんならぜひ名物のいかりまんじゅう送ってくれ」


と言い出す始末。ゆるっゆるだなオイ!とツッコミそうになったとき、先輩方が辞めてく子が多いと愚痴っていたことを思い出した。

つまりこの人も慣れているんだろうな、と思い
まぁ怒られないならいいか、とまんじゅうの約束をして別れた。





話をしていて遅れた分、急いで清掃を始めたがメタモン不在は結構痛かった。
最後だからとびっきり綺麗にしていこうとか考えていたのに時間内に終わらせるので精一杯だった。



とりあえず営業開始の時間には間に合ったので休憩室に行ってお茶を飲んでる先輩方にも報告をした。



「あらぁ…ツグミちゃんも辞めちゃうの?」



「はい。実家の都合で」


「傷心旅行にでも行くの?」


「いえ、違います」


傷心旅行。まさにその通りかもしれないと思いつつ、先輩が言ってるのはニュアンスが違うようなので否定しておく。


「多いのよぉ、ボスに会いたいからって下心で入ってくる子が」


「そのくせほとんど会うことないから辞める、とか言い出したり」


「見てるだけなんて苦しいだけ、なんて言って告白しにいってフラれて傷心旅行行ってきますとかいってそのまま音信不通」



「ちゃんと掃除してくれるならまだしも、サボったうえにタバコの吸殻捨てて苦情がきた、なんてこともあったわね」




「そうなんですか…」



先輩方が口々に今まで辞めていった人たちの不満をもらしていく。自分も似たようなものなのでとりあえず苦笑いで対応した。



傷心旅行。その言葉にやけに胸が傷んだ。






私は2人に迷惑をかけない為に、ジョウトに行くんだ。



本当に、それだけだろうか。





────


コンコンとノックをたてながら執務室に入ってきたのはクラウド。ノックはいいが同時に入ってきたら意味も為さないだろうに。





「あれ、白ボスおらんようですけど?」


なにやら1枚の封筒を持ってやってきたクラウドは執務室を見回してから声をかけてきた。


「ああ、クダリならツグミ様に会いに行きましたよ」


どうやら大事なものらしいので預かっておく。その封筒の差出人の名前を見て少し驚いたがしっかりと糊付けされていて内容はわからない。


「ツグミちゃんえらい忙しそうやったけど大丈夫やろか…。てか黒ボス、寝てないんとちゃいます?少し休んどいたほうが…」


封筒を渡し終えたクラウドは隣接する給湯室でコーヒーを淹れているらしい。


「いえ、これくらいいつものことにございます」


とりあえず封筒は後にして書類に戻る。どうしてこんなに書類が多いのか。
ポンと判子を押してまた1枚終了。終わった書類もぼちぼち片付けなければ。ツグミ様がいらっしゃればやって下さるのに、とため息をついた。


「…せめてコーヒーでも飲んどいて下さい」



そう言って机にあった空のマグカップと今淹れたコーヒーを取り替えてからクラウドは執務室を出ていった。


ありがたく頂戴して、



「ツグミ様の淹れるコーヒーのほうがおいしいですね」


ふふ、と笑った。













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