「うわぁぁああやっちゃったー!!」
ベッドにうつ伏せに倒れこみ、声をおさえるように顔を枕に埋める。ばたつかせる足が落ち着きの無さを物語っている。
クダリさんを追い出した後、ツグミは激しく後悔していた。
「せっかくクダリが探しに来てくれて心配してくれて謝ってくれたのに追い返すなんて!!」
本当は明日になってからジョウトに行くことを伝えようと思ってたのに、
2人の会話を聞かなかったことにして「ジョウトにイケメンジムリーダーがいるらしいので永久就職に挑みに行きます」って馬鹿みたいに言って
なんて自分勝手で責任感のない奴なんだ、って思わせて後腐れなくギアステーションを去るハズだったのに!!
まさかクダリさんが探しに来てくれるとは微塵にも思ってなかったからパニックになってしまった。
ジョウトに行くことも言っちゃったし会話を聞いてたこともバレバレだったし
これじゃ計画丸潰れだ。
「もういいや。ジョウトに行ってしまえば会うこともないよね」
起きあがり、乱れた布団を整えて灯りを消す。
顔のぎりぎりまで掛け布団を引き上げ
言い聞かせるように呟いて目を閉じた。
───────
いつもより狭い歩幅によって小さくなった足音が
就業時間を過ぎて静寂に包まれた廊下に遠慮がちに響いていた。
薄暗い中、灯りの漏れている部屋、執務室にたどり着いてゆっくりと扉を開ける。
「おや、クダリ。ツグミ様には会えたのですか?」
「…うん」
こちらに気づいたノボリが書類に向いてた視線をこちらに向けた。
しかしすぐに書類に戻し、忙しなくペンを動かす。責任感の強い彼のことだから自分の分の書類もやってくれているのだろう。
「それで?」
ペンを動かしたまま、問いかけられる。言葉が少ないのはやはり疲れているからだろうか。
歩いて自分の机に向かいつつ、質問に答える。
「ツグミ、やっぱり話聞いてた」
「そうでございますか…」
「明後日ジョウトに行くって」
自分の席に着いて力無く報告を伝えるように呟いた。
「そうですか、ジョウトに…なんですって!?」
ずっと書類に向いていた視線をこちらに向けて目を丸くしている。いつものへの字の口元も空いている。
「ツグミ、ボクらに気を遣った」
「明後日って…もう明日ではございませんか!!」
そう言われて時計を見るともう午前0時を過ぎていた。
「どうしよう、ノボリ」
すがるように問いかけるといつもの表情に戻って考えこむように顎に手をあてた。
「そうですね。今からじゃ送別会の企画も出来ませんね」
「え?」
「餞別を用意するにも荷物になっては困りますし…」
「ちょっと、ノボリ?」
ノボリならいい助言をくれるんじゃないかと期待したのに返ってきたのは望む答えではなかった。
「どうしました?クダリ。」
「なんでそんなにあっさりしてるの?ノボリはツグミが行っちゃってもいいの?」
思わず問い詰めるとノボリはまったく表情を変えずに
「もちろん寂しい気持ちはございますが、ツグミが望んだことならばワタクシが口を挟むことではないでしょう」
そう言われては言い返せない。唇を噛んでぐっとこらえる
だけど次にノボリの口からでた言葉には耐えられなかった。
「それに、余計な心配もなくなるでしょう?」
頭に血が昇る、とはこういうことか。
立ち上がって近くにあった椅子を蹴り飛ばし、ノボリに近付く。
「ノボリがそんなことを言うなんて!見損なった!!」
ノボリの胸ぐらを掴んで罵倒するが顔色ひとつ変えず、むしろ余裕そうな表情にますます怒りに震えるが
椅子がたてた派手な音に何事かとやってきたクラウドやカズマサやらに取り押さえられる。
「白ボスなにしてんの!?」
「離せ!」
「クダリ、」
ノボリの低くて落ち着いた声が聞こえる
睨みつけようとするがその目は真剣で、思わず口を閉じた。
「アナタがするべきことはなんです?」
その瞳で真っ直ぐ正面から見つめられてハッとする
ボクらはお互いのことを一番わかっている。
何を言えばどう返ってくるか大体わかるはず
そこで我に返った。
「ボス?」
「…はは!ボク間違ってた!ごめんねクラウド。もう大丈夫だから離して?」
いつもの調子に戻ったクダリを見ておずおずと拘束を解く。
「クダリ、仮眠室で少し休むといいでしょう」
「うん、わかった!ありがとうノボリ!」
そう言ってクダリは仮眠室へと入って行った。
状況が掴めず呆気にとられている部下達にノボリは手を叩いて意識を向けさせる。
「さぁさ皆さん、日が昇れば忙しくなります!一旦休んできなさい!ポケモン達もよく休ませておくように!!」
「了解!」
皆がそれぞれの場所に向かい、
1人残されたノボリは書類に取りかかる。
「さて、どうなることでしょう」
可愛い弟の為に、お兄ちゃんはがんばります、とすっかり冷めたコーヒーを飲み干した。
──────