ジョウトに行く。
向かい合って座るツグミはそう言った。

ジッと見つめる。どうやら嘘ではないらしい。



「急に、どうしたの?」




「いやー、お金が貯まったら元々あっちに行くつもりだったんですよ。いつまでもここにいたらいつ連れ戻されるかわかったもんじゃないですから」


話を続けて笑っているがこれは嘘だとわかった。
初めて会ったときと同じ、はりつけたような笑みだから。普通の人なら騙せただろうけど、あいにく作り笑いには敏感なんだ。



「もうお金貯まったの?」


ジョウトは遠い。船がでているけど決して気軽に行けるような値段ではない。

ましてまだ働きはじめて1ヶ月の少女にだせる額ではないはず。



「へそくりですよ。うちはそれなりにお金ありましたし」


これも嘘。
確かに実家は裕福だろうけどツグミはそれほど持ち出してきてはいない。



「実はあっちに親戚がいるのでそこにお世話になろうかと」


これも嘘。



「せっかくクダリさんに仕事斡旋してもらったのにこんなこと言うのも申し訳ないですけど、素人がギアステーションで働いて迷惑かけるわけにもいきませんし、前々からジョウトに行きたかったってのもあるので」



少しおどけた苦笑いで誤魔化そうとしているが本音はここだ。迷惑をかけたくない、って。
最後のは嘘だけど。



「いつ、いくつもり?」



「紹介してもらった仕事をすぐに辞めてしまうのは申し訳ないですが…明後日にも行こうかと」


「明後日!?」


あまりにも急な決定に驚かされる。しかも本気らしい。
まぁお見合いをバックレて家出をするくらいだからツグミらしいとも言えるが。




しかしどうやってその代金を捻出したのだろう。ツグミの性格からしてまさか父親にだしてもらったとは考えてにくい。
ジョウトに行くっていうのは本気らしいが。



「というかなにしに行くの?」



「永久就職先を探しに…ですかね」



気まずそうに笑うツグミに驚いた。だってこれ嘘じゃない。

そもそも結婚が嫌で家出をしたくせに一体どういう急激な心変わりだ。


「それ別にジョウトに行く必要ある?てか結婚する気があるならそれこそ家帰るとかさ、イッシュにもいい人はたくさんいるよ、」



「クダリさん?」




不思議そうに声をかけられて我に戻る。
なぜ必死にとめようとしているのか、自分でもわからなかった。
ツグミのことは好き、でもそれが愛とか結婚したいとかそういうものかと聞かれたら答えはわからない。わからないのなら違うんじゃないか。



でも確かにツグミに行って欲しくない、という気持ちがあった。



「ねぇツグミ、今日ボクらの話聞いてたでしょ」


悪意はなかったにしても原因を作ったのは自分だというのに。
さっき言えなかった言葉を思いきってぶつけてみた。


ツグミは一瞬目を見開いて、




「なんのこと、です?」


ふいっと目をそらしたツグミ。それじゃあボクじゃなくても嘘だってわかるよ。




「ツグミ、さっきボク嘘はダメって言った」



そう言うとツグミはうつむいてしまったがかまわず話を続ける。



「聞いてたよね?…ごめん、でもボクはツグミが好き。じゃなきゃギアステにきてなんて言わなかったし事務とか手伝いしてもらったりしない」



ツグミはうつむいたまま動かない。


「ボクもノボリもツグミのこと迷惑とか思ってない!」


そう言いきるとツグミは立ち上がって、顔はふせたまま


「気を使ってもらわなくて結構です。私は行きたいから行くんです。クダリさん、明日も仕事でしょう。はやく帰ったほうがいいですよ。私は今日ここに泊まります、寮もしまっただろうし」


一息で言い切り、ほら、と腕を掴んで立つように誘導する。思わず立ち上がって時計をみると結構な時間が経っていた。


そのままぐいぐいと力任せに背中を押され、部屋を追い出される。



「ちょっとツグミ?」

「クダリさん、ごめんなさい」



バタン、と音がしてすぐにガチャリと施錠の音がした。












ツグミに言ってもらいたいのはごめんなさいじゃないのに。



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