「またのご利用をお待ちしてます」
ウィーン、と扉が開く機械音と同時に
「ツグミっ!!」
突如現れたクダリさんに正面からタックルを喰らった。
完全に油断していた私は背中から思い切り倒れこみ、センターにいた人達の何事かという視線を浴びまくる。
ジョーイさんも驚いたように大丈夫ですか!?と声をかけてきたがクダリさんはお構い無しに私の肩を掴んで前後に揺さぶってくる。
「ツグミ!なんで急にいなくなったの!?」
そう言ったクダリさんはいつもの笑顔じゃないし、走り回ったのかうっすら汗をかいて息もあがってる。
そんな真剣な表情をされたもんだから、何も言えなくて俯いてしまった。
みかねたジョーイさんが空いてる部屋がありますから、といさめてくれて、クダリさんは私の腕を引き、案内に従う。
案内された部屋に入り、ベッドに座らされる。クダリさんも隣のベッドに腰掛け、向かい合う形になる。
「ツグミ?」
落ち着いた声が聞こえて、私は意を決して顔をあげる
「クダリさんなんでこんなとこにいるんですか?またサボりですか?」
けらけら笑いながら軽い口調で答える。
何事もなかったかのように。
「なんでって…ツグミが帰ってこなかったから…」
シリアスな雰囲気を払拭するために大袈裟に振る舞う私にあっけにとられたらしく、少し困ったようにそう言った。
「ああ、ごめんなさい。実はミックスオレ買ってすぐにお腹が痛くなって医務室で休んでたんです」
尤もらしい嘘を平然とつく。
嘘をつくのは慣れている
社交辞令として、必要だったから。
「連絡しようと思ったんですけど、ほら私ライキャス持ってないんで」
クダリさんは納得のいかない表情でこちらを見てる。何か言いたそうにしているが敢えて遮らせてもらう。
「やっぱりライキャス買うべきでしょうか。私機械苦手なんでよかったらオススメとか教えてくれません?」
流れるように次々言葉をつないでいくのは何度もやったお見合いや社交パーティなんかで鍛えた培った技術だ。我ながら作り笑いも板についてると思う。
なのに、
「ツグミ、嘘はダメ」
クダリさんがそう言って悲しそうに笑ったから
私の笑顔はひどく歪んでしまった。
「ボクもノボリもすごく心配した」
「ごめん、なさい」
「ねぇツグミ、今日……」
そこまで言うとクダリさんは気まずそうに目をそらしてしまった。何が言いたかったんだろう。
「クダリさん?」
「…ううん、なんでもない。それよりツグミ、なんでこんなとこにいたの?」
まるでスイッチを切り替えるようにいつものクダリさんに戻る。この人も笑顔で本心を隠すのが上手だから、私はこの人をうまく理解できない。
「なんでって…回復、ですかね」
「ツグミバトルしないじゃん。てかメタモンは?」
いつも肩に乗せているメタモンに気づいて首をかしげる。
「ちょっと預けました。ほんとは連れていきたかったんですけど、私の手持ちではないので」
まるで自分の手持ちのように可愛がっていたけど、本当の主人が現れたら返さなきゃいけない。だからいったん預かってもらうことにした。
「連れていく、って?」
さっきとは反対側に首を傾げるクダリさん。
その答えこそ、私が母に頼んだこと。
「私、ジョウトに行こうと思います」
───