「ちょっと遠いから急ごう…」


ミックスオレが売り切れていることに気付いて踵を返すと肩に乗っていたメタモンが身震いした。


「メタモン?」


声をかけた時にはもう姿を変えていた
たしかこの姿は


「ケーシィ、だっけ」


いつだったかずかんでみたことがある。レベルが低いうちはテレポートしか覚えてないから逃げられやすいみたいな…

メタモンがなにか言いたそうに鳴く



ん?もしかして…


「テレポート出来るの?」





ケーシィの姿でにんまりと笑ったかと思うと袖を掴まれ視界がブレた。






────

どうしてメタモンがケーシィになってさらにテレポートまで出来たのかはイマイチわからないが
とにかくおかげであっという間に戻ってくることが出来た。


「ありがとねメタモン」


執務室に入る前にまだケーシィの姿のメタモンを撫でる。
褒められてうれしいのかまだへんしんを解かない。


片手にミックスオレを持ち、執務室のドアを開けようとした時、2人の話し声が聞こえてきた。



なんとなく、聞こえてきた声のトーンにドアにかけていた手が止まった。


「うん、ツグミ面白い。でももしボクらがツグミになんかしたら、」


自分の名前が出されて中に入るタイミングを失ってしまった。

聞いていいのだろうか?


「サブウェイマスターをクビになるかもしれませんね」



「ボクそんなの嫌だ」


クダリさんのハッキリとした口調が胸に刺さった。
ノボリさんは言わずもがな、クダリさんだって無邪気に見えてその実きちんと確立した自分を持っている。



「ワタクシとて同じです」


ノボリさんもやっぱり自分の意見を口にする。


「気をつけなければなりませんね…」


「うん…」


私がもっとしっかりしていたら、もっと明るくてポジティブだったら、
この扉を開けて何事もなかったように2人の元へ行けただろうか。


「…メタモン、コレお願い」


そっと手を離して






私は逃げた。

────







この1ヶ月、休日はなるべく外にでて地理を把握しようと歩き回っていた。


寮に戻る気にも、まして執務室に戻る気にもなれずおぼえたての街をぶらつく。



あまり深く考えていなかったけど、私の親は2人の上司で。上司の娘だから優しくしてくれたりしたのかもしれない。



上司の娘だから。




家出なんかしてきたけど、本当は父親のことが嫌いなんじゃない。


父が私のことを溺愛しているのも知っている。


だからこそ私の幸せを願ってお見合いなんかさせたりするんだ。
まぁちょっとウザかったりイライラしたりかなりウザかったりするんだけど。





心配、してるだろうか。





一度ネガティブに考え出すとズルズルと悪い方向に向かう







今、私はクダリさんに助けられて匿ってもらっているような状況。それが父の耳に届いてお2人になにかしたりしたら───






血の気が引いた。いやまさかそんな、

でも 私の父にはそれだけのことをする力がある。


ワンマンなところもあるし、強情で頑固で行動派で。







家に帰るもんか、って思ってたけど

この意地は父親に似たのだろうか。







「駄目だなぁ…」





自分を奮い立たせるために両手で頬を叩いて



私は目的地を決めた。




────
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