「ツグミ様、こちらの書類をまとめてもらえますか?」


「ツグミ、コーヒー淹れてー。甘くしてねー」



どうも。ツグミです。
私は普段ギアステーションで清掃員をしている至って普通の女の子です。…女の子って何歳までゆるされる言い方なのかな。


ですが2週間程前から今私はサブウェイマスターの2人が働いている執務室でお手伝いをしています。


きっかけは先日、差し入れをしたときにあまりの忙しさに死んだ魚のような目をしながら書類をこなすノボリさんに
手伝えることがあるなら手伝うから休め、と言ったのが始まり。



3人でお茶会をして休んだあと、ノボリさんがよほど疲れていたのか、ソファーで寝てしまったので執務室と給湯室の掃除をし、クダリさんにも


「ちょっとノボリさんに負担かけすぎじゃないですか?クダリさんもサボってないで仕事しましょうよ」

と助言し、書類をやってもらっていたら目を覚ましたノボリさんが




「なんということでしょう…!部屋全体が空気まで綺麗になっているうえにクダリが仕事をしている…!ブラボー!!」



と至極感激して



「ツグミ様!時間に見合う謝礼はいたしますのでどうか出来るだけここでお手伝いしてくださいまし!!」






充血したつり目と逆三角形の口元で鬼気迫ったように頼まれては断れない。
そして今に至るという訳である。もう2人の手伝いをするのも慣れてきた。






「ノボリさん肩でも揉みましょうか」


「ありがとうございます。お願いいたします」


肩を回して溜め息をついているノボリさんに問いかけてから肩を揉む。かたい。苦労してるんだろうなぁ…。

涙ちょちょ切れちゃうね。


なんて考えながら手に力を入れているとクダリさんが不満そうに声をあげた。



「ノボリずるい!ツグミ、ボクの肩も揉んでよ!」


なにがずるいのかさっぱりわからない。というかクダリさん肩こってるようには全く見えないんですけど。


「クダリさんがあと2時間書類がんばったらいくらでも揉んであげますよ」


「うー…。わかった。絶対ね」


「クダリ、がんばったら今日の夕飯はシチューにしますから」


「ホント?わかったがんばる!」


見事な連携プレーでクダリさんは真面目に取り組んでくれた。
ノボリさんがうれしそうに書類をこなしていく。お母さん良かったね。



ノボリさんに「もう結構ですよ。ありがとうございます」


と言われたからクダリさんに飲み物のおかわりはいるか、と聞いたところ



「ミックスオレ飲みたい」



と言われ


「じゃあ買ってきます。サボっちゃ駄目ですよ」


と言い残して自販機のあるところまで向かおうとドアに手をかけたときに




「お母さんが2人…」



とクダリさんが呟いたけど気にしないで執務室を出て行った。





────





「ミックスオレ売り切れ…」


自販機にお金を入れようとしたところでミックスオレの売り切れを示す赤い点滅に気がついた。


ここで買えないとなると少し遠い所になる。財布を閉じて踵を返した。











「ノボリはさー…ツグミのことどう思う?」


「なんです藪から棒に。…そうですね、最初はあの方の娘と聞いて少々敬遠しておりましたが会ってみて見事に覆されました。とても気がまわりますし、よく働いてもらって助かりますね」



ペンを止めて気になっていたことをノボリに聞いてみた。


クダリは知っていた。
近くの自販機のミックスオレが切れていたこと、それによってツグミが戻ってくるのに時間がかかるであろうことを。



返ってきた返事はクダリが思っているのと同じようなものだった。ちなみにあの方っていうのはお見合いのときにクダリを苛立たせた上司のことで正直あまり好きではない。



そういえばツグミもお見合いの時はあまり良い印象ではなかったな、と少し懐かしくなった。



「うん、ツグミ面白い。でももしボクらがツグミになんかしたら、」


「サブウェイマスターをクビになるかもしれませんね」



「ボクそんなの嫌だ」


「ワタクシとて同じです」




ツグミのことは好き。
でも、大事なモノもたくさんある。




「気をつけなければなりませんね…」


「うん…」




会話も終わり再びペンを取ろうとした時、執務室をノックする音が聞こえた。
ツグミが帰ってきたのだろうか。



「どうぞ」


ノボリが返事するとドアが開かれる。しかし入ってきたのはツグミではなく、



「…ケーシィ?」



入ってきたのは見覚えのないケーシィだった。不思議にみつめているとクダリの元へやってくる。



「え、ボク?あ、ミックスオレ…」


ケーシィが持っていたミックスオレを受け取って予想がついた


「もしかしてツグミのメタモン?」



問いかけると肯定するように鳴いて、一瞬で姿を消してしまった。


「テレポート…」


驚いて呆気にとられているとノボリがペンを落とした。



「クダリ!もしかしたらツグミ様は今の話を聞いていたのでは!?」




ノボリの声で我に帰る。





今の会話を聞かれていた…?






嫌な汗が滲んだ気がした。


────
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