夢主はジョウト出身
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「私、ジャグラーさんの格好好きなんですよ」
徹夜2日目の疲労がピークに達している時間、執務室でペンを動かしながらナマエが唐突に呟いた
「ジャグラー?」
同じく書類と格闘していたクダリが大して興味も無さそうに聞き返した。
「ジョウトにいたトレーナーさんなんです」
「そういえばナマエジョウト出身だったっけ」
行ったことないなぁ、と頭に地図を思い浮かべる。サブウェイマスターなんてやってるもんだから旅行に行く暇も無い。今書類に追われてるのが物語っている。
「バンダナ巻いてマント羽織ってモンスターボールでジャグリングしてるんですよ。私あの格好が好きで好きで」
ふーん、と適当に返事をするが次の言葉を聞いて思わず顔をあげた。
「だから、クダリさんちょっとジャグラーの格好していただけません?」
「はぁ!?」
徹夜で頭がイカレたか。いや突拍子も無いことを言うナマエは平常運転だ。
ペンを置いてジッとナマエを見つめる。ナマエはこちらをみることなくペンを動かし続けていた。
ペンがとまったかと思うと一瞬意識が飛んでいたのか、首を振ってまた書類に向き合う。
一段落ついたのか、ペンを置いたかと思うと今度は
「お願いします」
いきなり顔をあげて真面目な顔でクダリを見つめる。
「あ、ハンコ?」
「違いますジャグラーの件です」
ごまかせるかな、なんて甘すぎる考えだったらしい。ナマエは両手をくんでどこぞの司令官のような眼差しをよこす。
目の下のクマが威圧感を醸しだしている。
「いやでも衣装とか無いし」
尤もな意見を言ったつもりだったがナマエはハッ、と鼻で笑った。なんかムカつく。
「大丈夫だ、問題ない」
「なにそれ」
はっはっはーと高笑いする。駄目だナマエが壊れた。
「私衣装持ってるんですよ!!」
「なんで!?」
「ジャグラーの友達に衣装が好きだって言ったら一式くれたんです!」
そう言って立ち上がり、ロッカーをガサゴソして衣装を取り出した。本気だ。本気とかいてマジだ。
どうにかして話をそらせないだろうか
「てかその友達見ればいいじゃん!」
「マイクはポケギアは持ってるけどライキャスは持ってないんです!」
電話は出来るけど姿は見れないんです、と悔しそうに唇を噛んでいる
「マイクって…友達の名前?」
「ええ。とってもいい奴なんです。いつ電話しても“電話うれしいなぁ!ちょうど僕も今かけようとしてたところなんだ!気が合うんだね僕たち!”ってうれしそうに言ってくれるんです。いつ会いにいっても嫌な顔ひとつせずにジャグリングみせてくれるんです!」
懐かしむように熱く語るナマエだがクダリは正直ムッとした。
「なにそれ。まるで恋人同士だね。ナマエもイッシュにこないでジョウトでずっとジャグリングみせてもらってたらよかったじゃん」
イライラしながらハンコを押す。ズレたせいで余計腹がたつ。破り捨ててやろうか。
「だって会いたかったんですもん…」
ナマエがボソッと呟いた。
「なら今すぐにでも会いにいきなよ」
「違います!」
神経を逆なでされて冷たく言い放ったらすぐに反論された
「雑誌で、たまたまサブウェイマスターの記事を見て一目惚れして……クダリさんに会いたくてイッシュに来たんです」
さっきまでのイカレっぷりはいずこへ。恥ずかしそうに言葉を紡ぐナマエにキュンとした。
ボクに会うためにわざわざイッシュまで?
不機嫌なんて一瞬で飛んでいく。だけどまだ素直に喜べないから
「別に、同じ格好ならノボリだっているじゃん」
衣装が良ければ誰でもいいんでしょ、と意地悪く突き放すように言うと
ずっ、と鼻を啜る音が聞こえた。
驚いてナマエの方に目を向けると目に涙を浮かべて今にもこぼれそうになっている。
「いや、です。クダリさんがいいですー…うう」
あーあ、こぼれちゃった。
ボロボロと涙を流すナマエ。
好きな子の涙に心が動かないわけないよね、
席をたってナマエに近づき、頭を撫でる
「ごめんね、意地悪しちゃった。どうしたら泣きやんでくれる?」
だけどナマエは幼い子供のように泣きじゃくるばかり。
「そうだ!ボク、ジャグリングする!みてて!」
腰につけてたモンスターボールを3つ取り出して放る
「っいて、」
だけど放ったひとつが頭に落ちてきて残りの2つも放り投げて結局また頭に落ちてきた。
ぽかん。と呆気にとられているナマエだったが
「失敗しちゃった…」
と、クダリさんが笑うと
「ぷっ、…あははは!クダリさんお手玉も出来ないんだ!」
と吹き出してから大笑いを始めた
「ちょっと、ナマエ笑いすぎ!」
でも泣きやんで良かった。
(おや、2人ともこんなところで寝て。よほど疲れが溜まっていたのでしょうね。もう少し寝かせておきましょう)
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なんだろうコレ
下手くそなジャグリング