今日はワタクシの愛しい恋人、ナマエ様の誕生日でございます。
仕立て屋をしている彼女が最近裁ち鋏の切れ味が落ちてきた、とおっしゃっていたので種類はよくわかりませんが店員に勧められたものを購入致しました。
プレゼントは貰う人よりもあげる人のほうが嬉しい、というようなことを聞いたことがあります。
まさにワタクシはその状態でして、喜んでいただけるでしょうかとそわそわしていたのです。
あいにく忙しく、休みがとれませんでしたので昼の休憩の間にナマエ様に会いに行きました。
お祝いの言葉とケーキと鋏をプレゼントし、反応を待っていたのですが
「裁ち鋏…ですね。ありがとうございます!」
ナマエ様は笑って感謝の言葉を述べましたが一瞬とても悲しそうな寂しそうな表情を見せたのをワタクシは見逃しませんでした。
ナマエ様はうれしそうに振る舞ってくれましたし時間もなかった為、一旦ワタクシは仕事に戻って参りました。
「ワタクシなにかまずいことでもしましたでしょうか…」
気になって書類が手につかず、思い切ってクダリに相談してみました。
クダリはワタクシと違って細やかな気配りができるので何かわかるのではないかと思ったのです。
ことの顛末を伝えると、クダリはしばらく考え、「まさか…」と呟きました。
手につかない仕事ならやる意味がない、とクダリに言われ早々に切り上げて鋏を買った店に来ました。
「どれ買ったの?」
商品が陳列された棚を見てクダリが尋ねる
「ええと、…コレですね」
「コレと全く同じもの?」
「間違いありません」
商品をひとつ手にとり、クダリに渡すと心底呆れたように溜め息を疲れました。
「ノボリが変なとこ鈍いのは知ってるけどコレはヒドいね」
「まし!?」
自分では至って本気でしたのでそのように呆れられる理由がわからない
「ナマエにはコレがいいだろうね」
「それは…」
ワタクシ、心から反省しております。
恋人同士だというのにこんなことに気づけないなんて
「ノボリさん、顔あげて下さい」
クダリに手渡されたものを購入し、慌ててナマエ様の元を訪ねて謝りました。
「ですが…」
「そりゃちょっとキズつきましたけど」
ナマエ様の表情に胸が締めつけられる思いです。
「でも、こうやってちゃんと貰えたのでとっても嬉しいです」
そう言って新しく渡した鋏を手にとって、
「意外と売ってないんですよね、」
と左手でちゃきちゃき鋏を鳴らした。
─
ナマエちゃんは左利きなのに普通に右利き用のハサミをプレゼントした、って話。
プレゼントに刃物って縁起悪いんでしたっけ?
ハサミで断ち切る