4月も中旬を迎えようとしている今日この頃。ギアステーションはいつも通りの賑わいをみせております。
バトルサブウェイも例に漏れず、新規のお客様もいらっしゃってますます盛況でございます。サブウェイマスターとして大変喜ばしいことですが、地上にでる機会が減っているのもまた事実でして。
「ノボリぃー…地上では桜が満開なんだってー…」
対戦相手に聞いたのでしょうか、クダリが呟いた言葉にああもうそんな時期かとカレンダーを見てため息を溢す。
「こう忙しくては花見どころではございませんね…」
「だよねー…。あーお団子食べたい!」
「クダリはやっぱり花より団子ですか」
それならば売店でも買えるでしょう、と言えば「地下で食べたって空しいよ!」と反論されました。一応雰囲気を味わう程度の風情は心得ているらしい。
「こう地下にばかりいては季節を感じることはできませんね…」
そう愚痴っているうちにインカムに連絡が入る
スーパーマルチと聞き、バトルで気を紛らわせようとクダリと共に執務室を後にしました。
「おや、トウコ様にトウヤ様でございましたか」
車両の扉が開き、やってきたのはよく知る人物でした。この2人ならばとても良いバトルになるでしょう、クダリも興奮気味に歓迎しております。
「2人が相手ならぜったいすっごいバトルになる!来てくれてありがとう!」
前口上無しでモンスターボールに手をかけると、
「ナマエさんに頼まれたんですよ」
「ナマエ様?」「ナマエ?」
「ちょっとトウヤ!それ内緒!」
「え?あっやべ…」
ナマエ様というのは部下の1人で、バトルサブウェイでのバトル要員を務めている方にございます。とても気が回る方で、我々も親しくしております。
そんなナマエ様の名前を出されて聞き返しても、2人は隠すようにバトルはじめましょう!とモンスターボールを放り、強制的にバトルが始まってしまいました。
「あーあ、負けちゃった…」
結果はワタクシ達の勝利。お互いに一歩も譲らぬ攻防で、どちらが勝ってもおかしくないたいへんやりがいのあるバトルでございました。
素晴らしいバトルの余韻に浸っていると
「まぁでも当初の目的は果たせたしね」
トウヤ様がそうおっしゃったので先ほどの疑問をぶつけてみました。
「ナマエ様がどうかなさったのですか?」
2人は一度顔を見合せ、笑顔を浮かべて言いました。
「「すぐにわかりますよ」」
「なにそれすっごい気になる!」
にやにやしながら降りていった2人を見送った後、クダリと共に執務室へと向かいました。
「一体どういうことでしょうね?」
「わかんない。ナマエのことだから悪いことじゃないとは思うけど」
クダリはわずかに口を尖らせて答えて少々不満そうでした。そんな弟を諌めながら執務室の扉を開けて、目に入った景色にワタクシもクダリも思わず固まりました。
執務室を埋め尽くす桃色、
暖かい空気の中で忙しなく動きまわっているのは、大量のチェリムでした。
「わーすごい!チェリムがいっぱい!」
「あっ、ボス!お疲れ様です!」
その中でクダリの声で気がついたらしい、深緑の制服を着たナマエ様がこちらを振り返ります。
「ナマエ様、これは一体…?」
状況が呑み込めず尋ねれば、ナマエ様は少しだけ気まずそうに苦笑いを浮かべて
「あの、最近忙しくて地下に籠ってばっかりだったじゃないですか。だからチェリムでお花見でもできないかなーって…」
ちょっと失敗だったかな、と言ったナマエ様の心遣いにワタクシとても感動いたしました。
「ブラボー!」
「ノボリうるさい。ナマエすごい!今からお花見しよ!」
「あ、お団子も買ってきたんですよ」
「わーい!」
クダリに一蹴されましたが、楽しそうに笑う2人と、満開のさくら(ポケモン)の下でお花見ができるのですから、良しとしましょう。
暖かい部屋の中、チェリムに囲まれてお団子というのもなかなか味があるものですね。
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サブマスとお花見
地下での季節