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※離婚いたしましょう、の続き
※無駄に長い





「離婚いたしましょう」


突然、いやむしろ流れ的には何もおかしくないかったけれどノボリさんはこちらを見ることもなくきっぱり言い切り、私は言葉を失った。


ノボリさんがこちらに背を向けてつかつかと歩き出したから慌てて呼び止めようとしたけどうまく言えなくてただ必死に待って、ノボリさん、と悲鳴のように声をあげても立ち止まることも振り返ることもなく視界から遠ざかっていった。



玄関が閉まる音が無情に響き、私は床にへたりこんだ。




違う、違うの、ノボリさん。




「「…母様?」」



遠慮がちにかけられた声に振り返ると件の息子たちが不安そうにこちらを見ていた。


愛しい我が子。






「父様はどうしたの?」
「母様、だいじょうぶ?」




何も知らない子供たちを見て私の涙腺は崩壊してしまった。



慌てて慰めようとしてくれる子供たちを強く抱きしめて、声をあげて泣き続けた。







─────





ノボリさんが子供をつくれない身体だってこと、知ってました。




結婚してから月日が経ってもなかなか子供を授かることができなかったから、私が原因じゃないかと思って病院で検査してもらいました。


私が原因ではないと告げられて、ひょっとしたらノボリさんに原因があるんじゃないかって思ってこっそり検査してもらったんです。






結果を聞いて私がとった行動は





「クダリさん、子供を切望してるノボリさんの為に協力してくれませんか?」














浅はかだったかもしれない。


でも、


“子供ができたら”

って嬉しそうに微笑むノボリさんの望みをどうにかして叶えてあげたかった。








私自身、子供が欲しくて仕方なかった。
ノボリさんとの間に、かたちある愛が欲しかった。




渋い顔をしたクダリさんに頼み込んで、泣きついて、懇願してようやく授かった命を
2人で育てていきたいと思った。





その選択が間違いだったのだと、頭に焼きついたノボリさんの後ろ姿に思い知らされた。








────







散々泣き喚いている最中、息子たちが一生懸命頭を撫でてくれていた。泣かないで、と。


まるでノボリさんのように、小さいけれど優しくて暖かい手に心地よさを感じて私はやっぱりノボリさんが必要だと思った。




「母様、寝ちゃった」

「カゼひいちゃう、でも僕らだけじゃベッドに運べない」


「どうしようか」「どうしようね」








─────

久しぶりの休日にお昼寝していたらライブキャスターの音で目を覚ました。





『もしもしナマエ?ってアレ?』


『クダリおじさん、ぼくらだよ』


ライブキャスターに表示された名前を見て、なにかと思えば顔を覗かせたのはナマエではなく自分によく似た子供が2人。

血を分けた実の息子だけど、戸籍上では甥っ子。そんなややこしい関係。
実の息子だけど、見るたびにノボリに対する罪悪感に苛まれて素直に可愛がることができなくて距離をおいていた子たちが一体何の用だろうと尋ねれば、



『母様、キッチンで寝ちゃった』
『泣きつかれて寝ちゃった』

『父様どこかいっちゃった』

『父様、電話にでない』




交互に話す子供たちの要領が得ないので一から話してもらっているうちに、自分の顔の血の気がひいていくのを感じた。



『わかった。とりあえず毛布でもかけてあげて』


『もうかけた!』『たくさん!』


ボクの息子にしては上出来だ、ノボリの教育の賜物なんだろうな。と苦笑いしながら通話を終わらせた。




「うーん、どうしよう…」




─────






「そらをとぶが使えないと不便ですねぇ…」





ノボリはそう呟きながらライモンシティの街を歩いていた。
別れを告げて飛び出してきたのでもっと遠い場所に行きたかったが明日には通常通りサブウェイマスターとしての仕事があるためこの街を離れるわけにもいかない。




「明日、どんな顔でクダリに会えばいいのでしょう…」


今まで絶対的な信頼をよせていた2人に裏切られ、半ば自暴自棄になりながらも仕事について考えている自分の生真面目さに思わず苦笑いを溢す。



傾いてきた日にライモンシティはオレンジ色に染まり、道行く人々の顔も夕日に照らされ、なんともいえず懐かしいような気分で歩みを進めた。


いわゆる逢魔が刻というのはこうも人の心を惑わせるのか。



なんども着信が入ったライブキャスターを見てため息を溢す。




離婚すると告げたのは自分。


付き合って欲しいと言ったのも、結婚して欲しいと言ったのも、


子供が欲しいと言ったのも、自分だった。




ナマエ様は優しいから断れなかっただけじゃないか、
本当はクダリのことが好きだったんじゃないか、


思わず頭を抱えて立ち止まると前方から声が聞こえてきた。




「「父様、やっとみつけた!」」




きれいにハモった声に顔をあげれば無邪気に笑う、血の繋がりのない息子たち。



「母様、すっごく泣いてた!」

「なのに父様、電話でない!」

「ぼくらすっごい探した!」





その表情、その話し方、
クダリによく似ている。




「クダリの…」


自分の中で沸々と沸き上がる得体の知れない感情にまかせて、手を伸ばす


「父様?」


無意識にその首に両手をかけた時、意識の奥から声が漏れだしたように頭をよぎったのは



“この子たちがいなければ”





グッ、と指に力を込めようとした時




「ノボリ、駄目!!」













瞬間手を離して我に返る。

どこから声がしたのか見回しているとトンッと音を立てて着地したクダリとアーケオスの姿が目に入った。




「クダリ…」


「ノボリ、落ち着いて。ボクの話聞いて」




突然現れた片割れに何を言えばいいのかわからず口をつぐむ。


「そろそろキミらの母様も起きたんじゃない?アーケオス貸してあげるから家に戻ってあげなよ」



クダリの言葉に従い、アーケオスに仲良く乗って息子たちは空へと飛び立った。その姿をぼんやりと見つめているとクダリがこちらに向き合った。気まずそうな表情から察するに、事態を把握しているらしい。




「クダリ、アナタを責めるつもりはありませ「聞いて、ノボリ」



言葉を遮られたかと思えばクダリはいつになく真剣な表情をしていたので黙って話を聞くことにした。








─────




「では、ナマエ様はワタクシの為に…?」





クダリに聞かされた話を落ち着いて聞いてみればなんてことはない、ナマエ様らしい話で。



「2人とも思いこみはげしい。もっとよく話し合えばいいのに」


クダリに言われるのだからそれほどのものなんでしょう。
気をつけねばなりませんね。




「だから、ナマエと仲直りしてきなよ!」


「しかし…」


正直なところ、ナマエ様を愛しているのは確かだけれど


「子供たちとどう接すればいいのでしょう」


一瞬とはいえ、憎悪の対象となったあの子たちを今までと同じように愛せるのでしょうか。




「ノボリは考え過ぎ…アレ?」


言葉の途中で空を見上げたクダリに倣って顔をあげると、




「ナマエ様?」



クダリのアーケオスに乗ったナマエ様がこちらに向かっている。よく見れば息子たちも一緒らしい。




「ノボリさんッ!」



ナマエ様がそう叫んだと同時にアーケオスから飛び降りる。まだ地上とは距離があったので慌てて受けとめる体勢になる。



「ノボリさんッ、ノボリさん!」



胸に飛び込んできたナマエ様をしっかりと抱き止めると鼻を啜りながら何度も震えた声で名前を呼ばれる。



ゆっくりと頭を撫でると声をあげて泣き出してしまった。


「ノボリさっ、ん!嫌いにならないでぇっ…!うっ…うぅ…」





必死に抱きついて泣きじゃくるナマエ様。


「嫌いになんて…なりませんよ」



思わず全力できつく抱きしめると一層声をあげて泣きだした。








「愛しております。ナマエ様」


耳元でそっと囁けば、小さな声で私も、と返ってきました。


────────







「ノボリさん、ティッシュ持ってませんか」


漸く落ち着いたナマエ様が放った第一声に拍子抜けする。鼻を抑えるナマエ様にティッシュを差し出そうとポケットを探るがあいにく切らしていた。



「クダリ…は持ってるわけないですね」


「なにそれ失礼!持ってないけど!」



「ぼく持ってる!」「ぼくも!」


2人の息子がポケットティッシュを掲げてナマエ様に手渡す。


「ありがとう2人とも。イイコイイコ」



頭を撫でてやるナマエ様に倣って手を伸ばそうとした時、


「2人ともノボリそっくり!」




クダリにそう言われて首を傾げる。



「どちらかといえばクダリにそっくりでしょう?」



違う違う!と首を振り、



「ノボリみたいにしっかりしてる!」



クダリにそう褒められて照れる子供たちに愛情を注げば応えてくれるのだ、と思う。



「クダリ、ちょっと」



クダリに耳打ちして一旦その場を離れる。





不思議そうにする3人の前に再び現れ、子供たちに問いかける。





「「父様はどっち?」」





表情も服装も口調も合わせているので3人とも戸惑っていた。


やがて顔を見合わせてから2人が言った答えは、




「わかんないけど、」

「どっちも父様」

「べつべつだけど、」

「どっちも父様」



本当に見分けがつかないのか、それとも何かしら感じることがあったのか、
どちらも父親だと言った。






それでいいのかもしれない。





「クダリ」
「なに?ノボリ」
「5人で暮らしませんか?」
「ノボリはそれでいいの?」
「ええ」
「えへへ。それすっごい楽しそう!」










−end−



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