「ナマエ、ボクのプリン知らない?」
「3時間くらい前に食べてたよ」
「え、そうなの?残念…」
「クダリ、ワタクシのでよければ差し上げますよ」
「本当?ありがとーノボリ!」
幼なじみのクダリは物忘れがはげしい。
生活に必要な記憶とか、大事なことは大丈夫だけどなんてことない日常の些細なこととかはあっという間に忘れてしまう。
昔頭に強い衝撃をうけて脳に異常がおきたのが原因だとか。私はその場にいなかったから詳しくは知らないのだけど。
「ねぇナマエ、最近ボクおかしいんだ」
「どうしたの?」
だからクダリが忘れてしまうのは仕方ないことで、私はそんなクダリをサポートするために同じ職場についたのだ。
「アタマのなかに白い靄がかかってるみたいにね、どんどん思い出せなくなってくるんだ」
「うん」
「今は大丈夫なんだけどね、…離れてるともうナマエの顔も思い出せなくなってきて、」
「私のことも忘れちゃうの?」
どうやら悪化してきているらしい。辛そうに話すクダリにこちらまで泣きそうになる。
「…忘れたくない、けど。いつか忘れたことすら忘れちゃうんじゃないか、って」
それがすっごく怖いんだ、と呟いた。
「忘れてもいいよ。思い出してくれるなら」
「どういうこと?」
怖いのは私のほう。
忘れられてしまうのは嫌だ。
「私が覚えてるから大丈夫だよ」
そっと抱きしめるとクダリは少し驚いて、
安心するように笑った。
「そっか!ナマエはボクのこと忘れないよね!」
「忘れないよ」
ぎゅーっと抱きしめ返される。
お互いの体温が交じりあうような暖かさが安心させてくれて心地好い。
「クダリも忘れないでね」
「うん」
大丈夫、私が覚えてるよ
「ねぇナマエ、」
だから
「なんの話を、してたんだっけ?」
私が泣いてることは忘れてね。
─
忘れないで