「痛い…」
ホームのベンチに座ってヒールを脱ぐと爪先と踵が痛々しい状態になっている
就職の面接の為に私、ナマエはこの施設 ギアステーションにやってきたというのに面接会場につく前に慣れないヒールに足が悲鳴をあげてしまった
カバンから絆創膏を取り出し、一番ダメージの酷いところへ貼り付ける。けれどとりあえずの応急処置であって、痛みがひくことはない。
目的地にたどり着けるかどうか不安になる。
さっきから立ったり座ったりを繰り返しているが一向に痛みは治まらない
「いやいやあきらめちゃだめだ」
せっかくあこがれのギアステーションで働けるかもしれないのにこんなところで立ち止まるわけにはいかない。構内の地図を取り出し目的地までのルートを探る。
そこをまっすぐ行って右、その奥の部屋…か。なんだ案外近いんじゃないか。
「よし行こっ…ぅ」
勢いよく立ち上がってはみたものの、足の痛みに耐えかねてベンチに逆戻り。じんじんと痛む足は思ったように動いてはくれないようだ。
あまりの痛さに涙が滲んできた。時計を見ると面接の時間まであまり時間がない。
いっそ目的地に着くまでヒールを脱いでいってしまおうか。
人の往来の多いこの場所は確実に汚れているがこの際どうでもいいそうだよとりあえず面接に出られればそれでいいんだ。
「よし行こう!」
ヒールを片手に立ち上がると目の前に影が見えた
「キミ、どうしたの?」
おそらく影の正体であろう人物に声をかけられた。
いい歳した女がヒールを片手に仁王立ちした姿を不審に思われたのか、慌てて顔をあげると声の主に見覚えがあって絶句した。
「サブウェイマスター…」
「うん。ボク、クダリ。サブウェイマスターをしてる」
目の前でにっこり笑うこの全身白いイケメンはこの施設で最強を誇るサブウェイマスターの1人、クダリさんだ。
この辺じゃかなりの有名人である。
なぜこんな所にサブウェイマスターが!?
ここは列車の中じゃないですよ、と言葉を失っているとクダリさんは私の足に気づいたらしく、
「わっ!靴擦れ痛そう!」
長い足の片膝をつけてしゃがみ、足を見つめる。
まだここに就職したわけでもないが目上の人が自分より低い体勢になってるのは申し訳ない
「どうしてサブウェイマスターがここにいるんですか?」
とにかく何かしゃべらなければ、と声をかけると、ん?と顔をあげられる。ウワァァァイケメンの上目遣いきました、クラッとしちゃうね。
「ここ、カメラついてる。キミ、立ったり座ったりして変だなーって思った!」
ハッとして天井を見上げると至るところに監視カメラが。
つい先ほどまでの自分の挙動を思い出し恥ずかしくなってくる。
「お恥ずかしい…」
「ねぇ大丈夫?歩ける?」
クダリさんは然程気にしていないようで変わらず足の心配をしてくれる。
それはいいけど忘れてはいけない。
「面接の時間がっ…!」
時計を見ると5分前。これは終わったんじゃないか…
「面接?もしかしてキミナマエ?」
面接という単語に反応したクダリさんに名前を言われた。なぜ知っている、まさか面接官?
「はい。ナマエですけど」
そう答えるとクダリさんはやっぱり!と笑って立ち上がった。
「履歴書みたよ!スクール首席で手持ちはシビルドン!」
「その通りです…」
「ボクもシビルドンもってる!」
ああなるほど。だから私のことを知っているのか。
「ボク絶対キミのこと採用したい!じゃあ行こう!」
そう言って私に背を向けてしゃがんだクダリさん。状況が飲み込めず突っ立っているとクダリが声をかけてきた。
「歩けないでしょ?さぁ行こう!」
おんぶですか!!
「いやいやそんなことしてもらうわけには」
「面接の時間まであと3分くらいだね」
クダリさんの笑顔は有無を言わせないようだ。
クダリさんの背中にしがみついていると構内にいる駅員とかお客さんに何事かとみられる。
恥ずかしくて顔を埋めるがクダリさんはさして気にしない様子進んでいく。
面接会場の部屋までは思ったより距離があった。というか直線の廊下が長い。この足にはこうかはばつぐんだったろうな、と考えているうちに待合室に着いた。
私を待合室の前に降ろして
「それじゃあボク中で待ってるから!」と言ってクダリさんは会場に入っていった。やっぱり面接官なんだ。
扉をしめる前にちょこっと顔を出して
「がんばってね!」
と笑ったクダリさん。
おかげで足の痛みも緊張もふっとんで頭の中はクダリさんで一杯になってしまった。
(次、ナマエ様、お入り下さい)
(失礼します、ナマエで(採用!))((ええ!?))
───
ぐだぐだのわりにたいして甘くない…(滝汗)!
収集つかなくてあきらめた。
この後クダリさんの世話役になればいい。
名前しか言ってません