※アタマおかしい。
※某曲をイメージ
※ヒロイン名前のみ
※さんかくかんけい?
──────
白い壁に黒を基調とした家具が置かれた部屋
奥に置かれた椅子に座る彼女の前に膝をつき話しかける。
「ナマエ様、お慕いしております」
「誰にも渡しません。どうか一生ワタクシの側で笑っていて下さいまし」
ナマエと呼ばれた彼女の頭を撫でて、額に口づけを落とし、抱きしめて愛の言葉を紡ぐ
「貴女様はワタクシのものです。ナマエ様にはワタクシだけいればいい」
「ワタクシもナマエ様だけです。他には誰もいりません」
誰にも渡してたまるものか。
執着からか、鈍色の双眸が彼女を見つめて逸らさない。
ナマエの微笑みも、細めた目の奥に覗かせる穏やかなまなざしも、小さく愛を囁く血色の良い唇も、
陶器のような白い肌も、
髪の毛の一本でさえ!誰にも!誰にも渡しはしない!!
ずっと、ずっと、ずっと!ワタクシの傍に!
瞳の奥をギラつかせて彼女の手を握って離さない。
ふと、彼女の左手にあるはずの指輪が無くなっていることに気がついた。
慌てて周りを見ると指輪はすぐそこのカーペットに落ちていた。
ホッと胸を撫で下ろし彼女の指にはめ直す。
いつの間にハズれてしまっていたのか、サイズはぴったりだったはずなのに。
「ノボリ、大丈夫?」
ノックもせずに入ってきたのは自分とそっくりな顔立ちの片割れ。
一度目を閉じ、歪んでいたであろう表情を正し
ナマエを隠すように顔だけ振り返る。
「クダリ。ワタクシはなんともありませんよ」
しばらく心配そうな視線を向けてきたがいつも通りの表情を崩さずに真っ直ぐ視線を返せば少し不満がありそうだったが、ならいいんだ、と部屋を出て行った。
何をしにきたのでしょうね、
「ナマエ様、そろそろ声を聞かせては下さいませんか?」
ナマエのもとへ視線を戻し、俯いたままの彼女に声をかけるが返事はない。
もう随分と声を聞いていない気がする。
なにか怒らせるようなことをしただろうか。しかしまったく身に覚えがない。
「ナマエ様、ワタクシなにかしましたでしょうか」
どうか俯いていないで顔をあげて下さいまし
両手で優しくナマエの頬を包み込んで顔をあげさせても眉一つ動かさない。
1ミリも表情を変えない。
あの優しいまなざしはどこへ消えてしまったというのか。
「ナマエ様…!」
すがりついても腕をまわしてくれはしない
背中をさすってくれない。
「ワタクシには貴女様しかいないのに…!!」
一旦気持ちを落ち着かせて
再び話しかける。
「ナマエ様、お慕いしております」
──────
扉を開けて部屋に入る。
白い壁に白い家具。多少散らかってはいるがシンプルで統一されている。
その部屋の奥に置かれた白い椅子に座っていた幼い少女がこちらに気づいて駆け寄ってくる。
「クダリしゃん、うれしそう。なにかいいことあった?」
足元から舌っ足らずな声が聞こえる。しゃがんで小さな体に視線を合わせて頭をなでるとうれしそうにはにかんだ。
「んー?大好きなナマエがいるだけでボクとってもうれしいよ」
さらさらな髪を梳きながら笑顔を向けると
ナマエと呼ばれた少女はほんのり頬をピンクに染めて、
「ナマエも、クダリしゃんだいしゅき」
小さい声で稚拙な愛の言葉を紡ぐ。そのまなざしは懐かしく、とても愛しい。
照れたのか顔を隠すように抱きついてきた彼女を抱えて子守唄を口遊む。
揺りかごのように抱いて暫く髪を撫で続ける
やがて眠りについた彼女の寝顔を見て満足そうに呟いた
「この子が大きくなれば、ね」
慈愛に満ちていた表情が一転し、口角が歪につり上がる
「今度はボクがナマエをもらうよ、ノボリ」
────
相変わらずの白と黒の部屋でノボリは違和感に首をかしげていた。
おかしい。どうしてナマエは返事をしてくれないのだろう、と。
あんなに幸せそうに笑っていたのに、今はワタクシよりも表情がない。
あの優しいまなざしは面影すら見えず暗い影を落としている。
「ナマエ様…?」
なにかがおかしい。
焦燥に駆られて黙考すると
不意に頭に鈍痛が走った。
どろどろと頭の中が揺れる
痛い。頭がおかしくなりそうだ。
おかしい。何か、大切なナニカを忘れているような。
痛みに耐えているとコンコン、とノックの音が響いた。今度はしっかりノックをしたらしいが返事は待たずに入ってきた。
「クダリ、…その子は」
入ってきたクダリは幼い少女を抱いている
すやすやと眠っている少女に見覚えがあった気がしたが鈍痛が邪魔をして思い出せない。
質問に対してクダリは心底おかしい、というような表情を浮かべ
「あははは!ノボリ、自分の子どものことも忘れちゃったの!」
少女を起こさないように声は抑えていたが嘲笑ははっきりと届いた。
「どういう、ことです?」
聞き返したと同時に鈍痛が激しさを増した。
クダリは嘲笑をやめ、少女を愛おしそうな瞳でみつめる。
「この子は、ナマエだよ」
泣きそうな、苦しそうな、それでいてどこか安心したような複雑な表情に悪寒がした。
「…何を、言ってるんです……?」
クダリが表情を消す。
いつもへらへらと笑っていた彼のみたことも無い表情に背筋に汗が滲んだ。
「ボク、ナマエのことが好きだった」
突然の告白に驚き、同時に納得した。双子なのだから、そういったところには敏感で、うすうす感じてはいたことだった。
クダリは続ける。
「でもナマエとノボリ、結婚しちゃった」
「ボク、ちゃんと身を引いたし、がんばって笑った。ナマエが幸せなら、って」
この先を聞いてはいけない、
直感的にそう思ったが身体が硬直したように動けない。
「でも、ナマエ死んじゃった」
クダリは相変わらず無表情のまま淡々と零した。
しかし意味が理解出来ない。
「クダリ、何を言ってるんです…ナマエならここに…」
ナニカがおかしい。
忘れている。思い出してはいけない。
「ナマエは、ノボリの子を…この子を産んで、死んじゃった」
───駄目だ、
『出産に耐えられるかどうか…』
『私、産みたい』
『おそらく帝王切開になるでしょう』
『きっとノボリさんに似て賢い子になるよ』
『名前はなんにしようか』
『破水…した』
『ノボリさん、』
『…大好き』
────お も い だ し た
あ、 あ…
あああああああああああああああああああああああああ!!!
鈍痛は消えて思考がはっきりと働きだし
現実と、それを認められないジレンマに絶叫した。
死んでしまった!
ナマエはもうこの世にはいない
「……っ!!」
ひどく冷静に現実を思い出し振り返ったそこにいたのは
「人形……………?」
先程までナマエだと思いこんでいたソレはまったく血の通っていない人形。
呆然と人形をみているとクダリが口を開いた。
「ナマエはノボリにとられちゃったから…この子はもらうね」
その恐ろしく冷たい声に振り返るとクダリの側にはいつの間にいたのか──の姿が
「──、さいみんじゅつ」
「ナマエ様、お慕いしております」
「ナマエ、はやく大きくなってね」
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狂ったのは黒か白か