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午後の柔らかい日差しが窓から射し込んでいる日曜日。


退屈をもてあそんでいたナマエはリビングのソファーに座ってポケモンずかんを開いていた。ところどころ抜けているぜんこくずかんをなんとなく眺めていると玄関が開けられる音がした。
合い鍵を持っているのは彼だけだから十中八九彼だろう。


バタバタと走る音がこちらに近づいたかと思うと乱暴にドアを開けてやってきたのは案の定白い彼。今日は帰ってくるのが随分と早い。


「ナマエ!ただいま!」


サブウェイマスターの象徴である白いコートと制帽のままナマエにタックルをかましてくる


「クダリさん、ここは私の家です」


さも当然にやってくるものだから自分が家主だというのにまるでここがクダリさんの家であるかのような錯覚を覚える



「ナマエ、なにしてるの?」


クダリは特に反応せず、いったん離れてナマエの手元を見つめる。自分の興味のままに話を展開するのが彼だ。



「ポケモンずかん見てたんです」

「へぇ、みせてみせて!」


こちらの了承を得る前に隣にやってきてずかんを覗き込み、自分の方へ寄せたかと思えばそのまま奪われる。
こういった行為に悪意は無いしごく自然に行われるので気にしない。




だけど手持ち無沙汰になってまた退屈がやってくる。クダリの方を見やるとずかんを閉じてこちらににんまりと笑顔を向ける。


「ナマエ、ボクおなか空いちゃった!なにか食べるものない?」


相変わらず自分のペースであるがこちらも退屈していたのでちょうど良い。
なにかあっただろうかと思考をめぐらせて思いついたものを提案する。


「少し待ってくれるならホットケーキを焼きますが?」


「それなら待つ!作って!」


そう元気良く返事をされたので立ち上がってキッチンへ向かい、粉と卵と牛乳を用意する。これらを混ぜるだけで作れるのだからホットケーキは偉大だと思う。


素人なのでパッケージのような見栄えの良いものは作れないがインスタントのおかし等誰が作っても大した差はでないだろう。


少しだけ気を使ってゴムべらでさっくり混ぜたり、フライパンを一旦濡らした布巾に当てたりしているがどれほどの違いがあるのか正直わからない。
マヨネーズを入れるといいとか聞いたことがあるが試す勇気もない。


弱火でゆっくり焼いているうちに皿とシロップを取り出す。
フォークも用意するがたぶんクダリさんは手掴みで食べるんだろう。布巾も用意しなければ。



一枚目を焼き終えてフライパンに生地を流し込んでから
とりあえず出来上がった一枚を運ぶ。


「クダリさん、出来ましたけど…」


焼きたてのホットケーキとシロップやらを載せたトレーを両手に持ってドアに呼びかけるが返事がない。一旦トレーを置いてドアを開けるとクダリはソファーに横になって眠っているようだった。



「やっぱり疲れてるのかな」


サイドテーブルにトレーを置いてクダリの顔を覗きこむ。制帽をつけたままだったので取ってやると寝返りをうって目をさました。


「…いいニオイ」


目をこすりながら上体を起こしたクダリにコートを脱ぐように言ってコートを受け取り、ホットケーキを差し出した。


コートと制帽をハンガーに掛けてからキッチンに戻ってホットケーキを裏返してまた数分。



飲み物を忘れていたのでお湯を沸かしてコーヒーを淹れる。角砂糖も用意してクダリの元へ。


「ナマエ、すごくおいしい!」


「そう言ってもらえて何よりです。コーヒーどうぞ」


小指でワンクッション。一ミリもずれていない皿とフォークの隣に置く。やっぱり手掴みだった。そのうちシロップで手がベタベタになるんだろう。



「ナマエってノボリみたい!」


「それは光栄です」


「でも最近ノボリボクのこと甘やかしてくれない!だからナマエにボクの面倒みて欲しい!」


口元にホットケーキのカスをつけていうクダリに苦笑する。


「私はノボリさんの代わりですか」


口元についてますよ、と指摘すると慌てて手で拭った。
食べかけのホットケーキを皿に戻してクダリはナマエに向き合う


「違う。ナマエに面倒みてほしい、っていうのは一生ボクのことを支えて欲しいってこと」


手を取られて真剣な眼差しを向けられ困惑する。


「えっ、と…クダリさん?どういう意味…」



「ボクと結婚して欲しい、ってコト」


そう言ってにっこり笑われては脳が沸騰して今にも倒れそうになる。

「だからね、これを…あれ?」


クダリが手を離してポケットを探っているしかし目当てのものが見つからなかったように慌てている。こちらも平静ではいられない。

これはいわゆるプロポーズだろうか?


確かにクダリと付き合ってもう5年程たったが今までそんな話一切していなかったのに、とぐるぐる考えていると突然「あ、コート!」と叫ばれビクリと肩が揺れる


コートに駆け寄ったクダリを呆然とみつめていると嫌なニオイが鼻を掠めた



「あった!」「ホットケーキ!」

クダリが目当てのものを見つけて声をあげたのとナマエがホットケーキの焦げるニオイに気づいて声をあげたのは同時だった。



慌てて火を止めにリビングを出て行ってしまったナマエの後ろ姿に向かって呟いた。



「コレ、指輪…」















(きゃ────!!真っ黒コゲ!)
(ナマエ、ねぇコレ…)
(ちょっと待って下さい、ああフライパンがぁぁああ!)
(…………。)





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ねぇねぇ、コレ!
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