「では、第1回ギアステ闇鍋大会を開催いたします」


そんな恐ろしい一言を発したのは一体どこの誰だっただろうか。
海の向こうの普段から闇鍋食べてるようなメシマズをこの場に呼んだ挙句、一緒に死のうなどと心中染みたこと言ったのは誰だ。


「ノボリさん、今回ばかりは私貴方を恨みたい」

「ボクもナマエに同意だよ、ノボリは僕らを殺したいの?ねぇ、殺したいの?」


以上の事を踏まえれば分かると思うが、全ての元凶は言わずもがなノボリさんだ。
先日、ラジオでどこかの芸人が闇鍋を食べたという話しを聞いたノボリさんは、そのスリリングな遊びをどうしてもやりたいと思ったらしい。

人生に一度くらいは闇鍋経験してもいいかな、くらいに思っていた私とクダリさんは、随分と楽しそうなノボリさんのお願いを聞いてあげる事にした。

そう、元々は私とノボリさんとクダリさんの三人だけでやる予定だったのだ。


「なのに何でインゴがいるの!おかしいよ!こんなの絶対おかしいよ!」

「エメットさんだけなら全然OKしましたよ、勿論!でもインゴさんいるなんて聞いてませんよ!」

「お二人とも落ち着いて下さいまし」


ノボリさんは、これが落ち付ける状況だと思ってんですか!
困ったように笑うノボリさんの胸元を掴み上げ、ガクガクと揺らしているクダリさんは完全に涙目だ。
斯く言う私も泣きたい。

そんな私たちをきょとんとした表情で見つめるメシマズこと、インゴさんの手には最早食べ物ではないだろう物体が。


「ねぇインゴ、それなぁに?」


思わず硬直した私の気持ちを代弁するように、クダリさんが引き攣った笑みで問い掛ける。


「え、マフィンですが」

「ごめんねクダリ、インゴこれでも本気なんだ」

「せめて冗談が良かったです!」


エメットさんが心底疲れたように、死にそうな声で告げる。
どうやらインゴさんは闇鍋とは「失敗作を入れて適当に煮込む料理」だと思っているらしい。

違います、大まかに言えば「人が食べれる物を適当に入れて、シャッフルして食べる」のが闇鍋です。
誰も危険物を突っ込めなんて言ってないんですよ、インゴさん。


「どうしてインゴ誘ったの!」

「だって、わたくしたちだけではつまらないでしょう!こういうものは大勢でやるべきです!」

「ノボリ、僕が言うのもなんだけど…結構な人選ミスだと思うよ」


ほら、エメットさんも言ってるじゃないですか。
もうホントにお願いだからやめませんかノボリさん、今なら間に合いますよ。


「ナマエ様は、わたくしと食事を共にするのが嫌なのですか?」


必死でノボリさんを説得していると、ぽつりとインゴさんがそう呟いた。
その声がいつになく寂しそうで、私は慌てて違いますと叫ぶ。

違うんですインゴさん、一緒に食事はしたいです。
けど、どうしても闇鍋だけは勘弁して欲しいと思ってます、というかむしろ申し訳ありませんがインゴさんの手料理を下げて頂けると助かります。


「…なんて言えるかぁっ!」

「ナマエ様…どうしたのですか?」

「あぁごめんなさいインゴさん、取り乱しました」

「ねぇナマエ、今日はもう諦めよう…ボクたちじゃこの二人を止められない」


死ぬ覚悟を決めるしか道は無いよ。
だなんて物騒な事を口にしたクダリさんは、コトコト煮える鍋を指差した。
パッと顔を上げて鍋を覗けば、そこには先程真っ黒な煙を上げていたマフィンなどが詰め込まれ明らかな異臭を放つ。

まさかと思い、恐る恐る後ろを振り返ってみると、ノボリさんとインゴさんが期待十分な眼差しで煮え滾る鍋を見つめている。


「ノボリさんも、インゴさんの手料理の壊滅さ加減知ってるはずなのに…」

「あのねナマエ、これ多分ノボリが考えた罰ゲームだと思う」

「罰ゲーム?」

「闇鍋お決まりの、『こんな変なの食べれないよ!』的なノリを求めてる」

「完全に死亡フラグですね」


がっくりと項垂れた私の肩を、クダリさんとエメットさんがさりげなく叩く。
二人は既に死ぬ覚悟が出来たらしい。


「ナマエ様、始めますよ!」

「いい加減腹を括りなさい、闇鍋にスリルは付き物なのでしょう?」

「どうなっても知りませんからね!」


まずは言い出しっぺのノボリさんが挑戦するようで、では!と勢いよく箸を刺した。
そして、取り出したのは…


「これは…」

「それ僕が入れたタイヤ味のグミ」


ノボリさんの箸の先には黒くて丸いグミ…エメットさん曰くタイヤ味だという。
どんなものか予想が付かないのか、首を傾げたノボリさんは一気にそのグミを口に放り込んだ。


「うぐ…っ!硬っ…まずっ」

「ご愁傷様ノボリ」

「お疲れ様ですノボリさん」


ノボリさんが食べたのは知る人ぞ知る英国の危険物。
タイヤどころか普通にゴムの味のするそのグミは、そうとうな硬さで噛むのも飲み込むのも難しいと聞く。

そんなノボリさんの苦々しい顔を隣に座るインゴさんはクスクスと笑いながら見ていた。


「大変ですね、ノボリ様」

「インゴ様…これは予想外でした」


闇鍋のルールとして、箸に触れた物は絶対に食べきらなくてはならない。
というわけで、ノボリさんは決死の思いで硬いグミを食べている。

次は時計回りでエメットさんの番だ。
未だ箸に慣れていないのか、エメットさんが手に持っているのはスプーン。
それを鍋の中に突き入れた。


「エメットさんご臨終のお知らせ」

「エメット追悼のお知らせ」

「嘘おぉぉっ!」


エメットさんが掬いあげたのは見るも無残なザリガニ。
確かにどこかの国には食用のザリガニがいると聞きましたけど、まさか鍋の中に入っているなんて。
というか、よくそれを掬う気になりましたねエメットさん。


「ザリガニ入れたの誰!」

「わたくしです」

「ちょっとノボリ!これ絶対そこら辺の川で釣って来たでしょ!」

「大丈夫です、エビと変わりません」


見た目的に変わるよ!と叫ぶエメットさんはやけくそにザリガニを引き千切ると、中の白っぽい身を目を瞑って頬張る。
すると、何とも言えないような顔をして私たちを見た。


「ナマエちゃん、泥っぽい味するよ」

「そこら辺の川のですからね」

「それになんか妙な焦げ臭さと、生茹でで辛い」


食中毒になってる、と呟いたエメットさんはそれでもザリガニを完食しようと懸命に口を動かした。

それから次にクダリさんが鍋から取り出したのは、私が持って来たバナナ。
もちろん、醤油汁に浸されたバナナの味など美味しくないが、それでもクダリさんはマシなのが出たと喜んでいた。


「次はナマエ様とインゴ様の番ですね、お二人でどうぞ」

「よし、死のう」

「では、行きますよ」


先程から例のアレが出ていない時点で、こうなることは分かってたんだ。
今、鍋の中に残っているのはノボリさんの入れた何かと、インゴさんの毒物。
2分の1の確実だ。


「これは、大福でしょうか」

「…………」

「ナマエしっかりして!」

「ナマエちゃん、食べる前から死んじゃダメ!頑張って!」


いや、頑張れないです。

私の持つ箸の先には、先程よりも形の崩れたインゴさん特製マフィン。
最初の状態でさえ食べ物じゃなかったのに、今となっては人類が作ったものかどうかも怪しい。


「おいしくないですね…醤油に使った苺大福は」

「インゴ、隣のナマエを見て、美味しくないだけで済んでよかったじゃない」

「何と言うか…この世の終わりみたいな顔してるねミホちゃん」


同情の眼差しを向けてくれる白組二人をスルーし、期待の籠った眼差しで私を見るノボリさん。

さぁ、ナマエ様も観念してお食べ下さいまし!そう言ったノボリさんの笑顔は、多分一生忘れないだろう。







末代まで呪います
(三途の川が見えたのは幻覚じゃない)













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路地裏のハト の甘夏様よりキリリクでいただきました!ありがとうございました!




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