意地でもなつかせたいようです
目が覚めて聞こえてきたのは刻々と時間を刻む時計の音とペンが紙のうえを滑る音だった。
まだぼんやりとしている頭で時計を見ると夕方の時間帯を示している。ノボリさんを待つ間に寝てしまったらしく、ソファーで待っていた私の身体にはタオルケットがかけられていた。
タオルケットをかけてくれたであろう人物―ノボリさんは机でなにやらカリカリと忙しなくペンを動かしている。
クダリさんはいないようだ。
書類と向き合う真剣な表情を見つめているとこちらの視線に気づいたらしく
顔をあげたノボリさんと目が合う。
「ああ、メア。起きましたか」
そう言って立ち上がったノボリさんの元へ近づく。そういえば抱きついてあげようと思ってたんだった。
「シャーン」
「あ、忘れていました」
抱きつきにいったもののノボリさんが突然しゃがんだ為に不発になってしまった。通りすぎてしまった恥ずかしさと出鼻をくじかれたことで少し心が折れそう。
「メア」
再び立ち上がったノボリさんの手元にはピンクでふかふかのそれはそれは可愛らしい、
(ピッピ人形?)
ポケモンに投げつけると可愛さに気をとられるから必ず逃げられる…だっけ?
使ったことがないからイマイチわからないけどCMでもやってるしけっこう人気のある商品らしい。
でもなんでそれをノボリさんがこちらに見せるように両手で持っているんだろう。くれるの?
「シャン?」
「差し上げます」
と言われてもどう持てばいいのやら。私の両手(?)は炎が燃え盛っているんですよ?
困惑しながら揺れているとノボリさんはピッピ人形を下げて
「…お気に召しませんか?」
ああほらまたそんな悲しそうな顔して!
違うよ!と訴えるように鳴けば、ちょっとだけ困ったように目を細めて笑う。ああもうわかってない。
しかしピッピ人形はどうしたらいいんだろう、と思いあぐねる。
(うぅん…どうやって受け取ろう)
なんとかして受け取りたいのだけれど、と悩みながら
ノボリさんの手中に収まるピンクを凝視していると、
それは僅かに光を帯びたかと思えば突如宙に浮かび上がり、ノボリさんの腕の中を離れた。
無機物が動き出したことに驚いて自分の身体が一瞬硬直する。それに連動するようにピッピ人形は地面に落ちた。
ノボリさんがまたすごく悲しそうな顔をしたけど私は地についたピッピ人形を見てようやく理解してそれどころではない。
(私、サイコキネシス使えるんだ…!)
シャンデラの姿になっていたとはいえ技なんて使ってなかったからすっかり忘れていた。サイコキネシスなんてチートが使えるなんて!
ノボリさんが拾い上げようとしている地面に転がっているそれを見つめ、集中するとあっさりと浮かび上がる。そのまま自分の方へ引き寄せた。
「シャンシャンッ!!」
サイコキネシスが使えたことに感動し、ピッピ人形と踊るようにくるくる回っていると
「メアっ!気に入っていただけましたか!」
目をかっ開いて声をあげたノボリさんが両手を広げてこちらに向かってきた、が見開かれた目で凄みを増した無表情でブラボーと叫ばれたものだから私は思わず
逃げた。
「メアっ…」
あーあ…またノボリさんが凹んじゃった。
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