はじめまして、シャンデラくん




夢をみた。




「シャンデラ!」


「シャーンッ!」



タワーオブヘブンのてっぺんで私はシャンデラと遊んでいた。



そう、ヒトモシがはじめて捕まえたポケモンだったんだ。
はじめての自分のパートナーがとてもうれしくて、愛しくてずっとずっと一緒にいた。



バトルはあまり上手じゃなかったけど一緒に旅にでて成長していって、ランプラーに進化したときは感動で涙がでた。




ある日手に入れたやみのいしに興味を示したランプラーにつかってみたら綺麗な炎を揺らめかせるシャンデラに進化した。



私はずっとシャンデラと一緒に生きてきた。




―だからこんな夢をみたんだ。







涙がこぼれそうな夢だったけど、シャンデラの姿になった私が涙を溢すことはないらしい。





ボックスで送ってもらい、イッシュに戻ってきた私はタワーオブヘブンの頂上で一寝入りしていたのだけど、なにもすることがない。





「目的はなんや?」

マサキさんに何度も聞かれた台詞を思い出す。
目的なんてないよ。




私はただ、取り戻したかっただけ。
そんなことを考えながらふわふわとなにをするでもなく浮かんでいた私は、背後から近づいてきた気配に気がつかなかった。







「おや。こんなところにシャンデラがいるなんて」





突然聞こえた声に驚き振り返り、その姿をみてさらに驚いた。


黒いコートをたなびかせる長身の男、黒い制帽に黒いスラックス、端整な顔立ちに灰色の瞳、無表情とモミアゲ。


イッシュの有名人、ギアステーションのバトルサブウェイで地底の王者、サブウェイマスターの1人、


(ノボリさんだ…)




本人をみるのは初めてだが雑誌の特集やギアステーション内のポスターでよく見かけるので一目でわかった。





「捨てられていたヒトモシを離しにきたのですが…変ですね、野生にいるなんて」


そう言って周りを見回す。トレーナーらしき人物がいないことを確かめているようだ。
誰もいないことを悟り、腰につけていたモンスターボールを取り出す。

ひょっとしてバトル?と思い身構えると、ノボリさんのモンスターボールからでてきたのはシャンデラだった。





『…はじめまして。ボクノボリさんのパートナーやってます。ニックネームはないです。キミは?』


自分と同じ姿の彼は丁寧に自己紹介をしてくれた。ポケモンの言葉がわかるなんて思ってなかったから本当に驚いた。



『私、はメア…ご主人は…今はいないの』



とりあえず答えると、ノボリさんのシャンデラは少し悲しそうな表情をした。自分がポケモンになっているからか、感情の機微がなんとなくみてとれる。



『そうなんだ…』


『そんな顔しなくてもいいよ。もう昔のことだから』


自分が笑えているかはわからないけどなるべく明るく言えば彼もなんとなく微笑んでくれた。
ポケモンになって初めて話ができたということもあってなんだかうれしくなった。

ノボリさんは相変わらず無表情だけどたぶん私たちを見守っているみたいだ。


『メアはここでなにしてるの?』

『うーん…なにもしてないや』



思い出に浸りにきただけで、実はなんの目的もこれからの予定もない。


『ひとりでここにいるの?』


『うん』

『ともだちは?』

『ううん、ひとり』


ここにはヒトモシがいっぱいいるけど、あのこたちは幼いせいか会話はできなかった。もしもし鳴いてたけど。



『じゃあボクといっしょにいこうよ!バトルができるよ!』





『え?』




そう言われるやいなや手をひかれ(サイコキネシスかなにかで)、2人仲良く並んでノボリさんの前へと連れていかれた。


「おや、シャンデラ。仲良くなったのですか?」


「シャーン!」



「ですがそろそろ帰らねば…休憩が終わってしまいます」


わざわざ自分の休憩時間にヒトモシを返しにきたらしい。威圧感のある見た目とは裏腹に優しい。


「帰りましょう?」


そう言ってモンスターボールを手にするがシャンデラは拒否するような動作をして、私にくっついてくる。それを見てノボリさんが目を見開く。



「…一緒に行きたいのですか?」

「シャーン!」



うんうん、と元気よく返事をするシャンデラくん。コミュニケーションをとるのが上手だ。



「そちらのシャンデラもよろしいのですか?」


「シャンッ」


あ、はい、ともらした声は肯定として受け取られたようで、ノボリさんは空のモンスターボールを取り出した。



正直モンスターボールに入るのは怖いがゲットされてしまえば衣食住が保障される。どうせ今自分はポケモンなんだ。



おとなしくゲットされよう!





ポンっと優しく投げられたモンスターボールに吸い込まれる。











こうして私はノボリさんの手持ちになった。







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