一万打企画 | ナノ




「なぁ、なまえ。ポーカーできる?」
「あ、はい!」

最近なまえが心配でカジノに行っていない光は少し退屈気味だった。

「フラッシュや」
「すみません。フォーカードです」

何度やっても光は負ける。

「病人や思て手加減しとったけど、結構強いな」

(してへんけど…。)

「ありがとうございます。次も負けませんよ!」

楽しそうに笑うなまえを光は初めて見た。

(そーゆー顔もできるんか)

また新しい彼女の一面を見れて光は嬉しくなった。

「もっかい勝負や!」
「望むところですっ」

しかし本当に何度やってもなまえに光が勝つことはなかった。

「こっちはこれで暮らしてるんやで。プロか自分…」
「なんかあたし、昔からこういうの得意なんですよね」

話しながらトランプをきっていたなまえの手が止まる。

「あの…」
「ん?」
「あたしの話、聞いてもらってもいいですか?」
「ええけど…」

いきなりの重たくて冷たい空気に光も顔が真剣になる。

「…あたしはたくさんの人を殺しました」
「っ!?」
「復讐という名のエゴで…」

なまえの思わぬ発言に光は目を見開いた。

「あたし、本当は地獄に行くことを望んでいたのかもしれない。でも…心のどこかで自由になりたかった」
「…」
「一つだけ、やり残した事があるんです。それを今からやりに行きます」

悲しそうだけれど、どこか決心をしたなまえを見ると光は言葉に詰まった。

「その後、行く場所あんの…?」
「無いです。」

ニコッと笑うなまえ。

「そういえば、今は殺されちゃったけど…あたしの大好きだった人も光さんと同じ青い瞳をしていたんです。だから、初めてあなたを見たとき、それはあたしへの戒めだと思いました」

なまえの手が光の頬に添えられてドキッとした。

「あたし、光さんと出会えて嬉しかった。短かったけど光さんと過ごした時間、あたしは初めて自由を感じたから…」

なまえは光に軽く頬に触れるくらいのキスをした。

「今までありがとう。さようなら」
「ちょっ、待てや!」
「…」
「アンタ、ほんまにあの世に自由があるとでも思てんの?」
「・・・」
「俺んとこに自由があるって感じたんならずっとここにおったらええ。それじゃあかんの?」
「…ごめんなさい。」

パタン、
なまえの閉めたドアの音が光の中でこだました。






なまえが出て行ってから一週間が経った。

「ストレート。」
「ククッ、フルハウスだ」
「くそっ!」

なまえが家を出て行ってから光は元の生活に戻った。だが、カジノに行っても全く勝てなかった。

「調子が上がらないのかあ?天才さんよお」
「うるさい!」

ダン!とテーブルを叩いて怒りをぶつける。どんなにもがいても勝てない自分にチップは返ってこなかった。

「もうええ。帰る」
「ちょっと光〜!」
「最近光、調子良くないね」
「あんなの光じゃないわっ!」

女たちの悲鳴が光のいないテーブルで響いた。

「ちっ。…」

満月が不気味に明るくて雪がチラチラと降っている。全てが重なっていてあの日を思い出した。

「…なまえ」

家までの道のりを歩いているとなまえを初めて見かけたビルの間が目に入る。

「あいつ、今どこにおるんやろ…」

そんなことを考えながらサクサクと雪の中を歩く。家の近くまで来ると家の前に倒れている人影が見えた。

「えっ……。」

それが何か気づいた光は真っ先に走り出した。

(なんで…っ、なんで…おんねん)

「なまえ!」
「…ひかる、…さんっ」

すぐなまえを包み込むように光はなまえを抱きしめた。

「何してんねん。こんな寒いのに…」
「光さんっ」

光が力強くなまえを抱きしめればなまえも光を強く抱きしめ返した。

「やり残した事は…終わったんか?」
「はい…」
「そうか。…無事で良かった」
「…。」

なまえは何も言わずただ光に抱きつくだけだった。

「…光さん、」
「ん?」
「あなたの言うとおりあの世には自由はなかった。ただ暗闇の中、もがき苦しむ人たちが助けを求めていました…」
「…」
「あたし、怖くて…逃げてきました。…光さんに会いたくて…」
「おん…」
「ごめんなさい」
「謝らんでええ。それでええねん」
「っ、ありがとう…」

涙を流すなまえの唇にそっと口づけをする。

「俺と一緒に暮らそ…なまえっ」
「はいっ…!」

雪が降って冷えきった身体で抱き締め合えば、互いの体温で不思議と暖かくなった。

「光さん、大好きです」
「俺もや」

光となまえはもう一度キスをして、家に入ると部屋のベッドでより互いの身体を暖め合った。











冷めない体温


2010.6.21



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