カッコ悪い I love you!【◆A】 | ナノ






「あー、やっぱ屋上いいな! いい風来てるわー」

「ん、そうだね」





梅雨時にしては珍しく晴れた日。
こういう日は外で飯食うに限る! って半ば無理やり由衣を誘って屋上に来た。
嫌な顔一つしないのは由衣の優しさだろう……単に無愛想っていうのもあると思うけど。



購買で買ってきたパンをもそもそ食べながら、テキトーに由衣と駄弁る。
駄弁るとは言っても、大体はあたしが一方的に話題を振って由衣が気まぐれに答える、そんな感じ。
とにかく由衣は、必要以上に喋らないのだ。
一応は"友達"……のはずだけど、こいつとはあんまり会話が続かない。
去年知り合ってからずっとそうだったとはいえ、なかなかに奇妙な関係だと思う。

なんて思ってるうちに、話題は自然と部活の事になった。
昨日の練習の時気になったこと、今日の練習は何をするか。
こうなると、さっきまでの由衣とは全然雰囲気が変わってくる。
音楽の事になると途端に饒舌になるのだ。
こいつもよっぽど好きなんだなーって思うと、毎度の事ながら嬉しくなる。
一緒になって同じものに熱中できる、仲間なんだって認識できるから。





「でさー、そろそろ7月のライブの曲、決めないとなって」

「だね。京はやりたい曲あるの?」

「そうだなー……最近練習してるし、あれかな」

「『Unsheathed』?」

「それ! やー、あれは良いな!叩いててスカッとする」

「スカッとするのはいいけど、リズムキープはしっかりしてよね」





呆れたように溜息をついた由衣に「へいへい」と返して、焼きそばパンを頬張った。
リズムキープ、ねー。
ドラマーが大事にしなきゃいけないことの筆頭だろうけど、如何せんあたしはそれが一番苦手。
だってドラム叩いてるとさ、すごい疾走感して気持ち良いんだもん。
で、気がついたらよく走り気味になってんの。
由衣なんかには特によく注意されっけど、こればっかりはなぁ……



仕方ねーよな、と心の中で苦笑しながら、またパンを一口。
するとちょうどそのタイミングで、ドアが開く音がした。

珍しいな、案外ここ、普段は人来ないのに。

そう思ってちらっと視線を動かせば、





「……あ、」





ぽかんと呆けたような顔をした御幸と、その後ろに。





「(……あっ)」





見慣れたツンツン頭。
毎日のように顔を突き合わせてはケンカばっかりの、そいつ。

へえ、この二人か。
そう思ったら、嗜虐心が湧くというか。
由衣にちょっかいかけるも相手にされずに凹んでいる御幸と、その後ろに居る元ヤンに、皮肉っぽく言ってみた。





「珍しいな、倉持達が屋上なんて」





ぴくっと反応したのは勿論、あたしが倉持と呼んだツンツン頭。
釣りあがった三白眼が、すぐさまあたしを捉えた。

御幸は由衣の方に夢中で、あたし達の方は気にしてないようだけど。
一方で倉持は、もう既に臨戦態勢を整えているご様子。
ここであたしがブレーキをかけられればいいものを、お生憎様あたしはそこまで自制できる人間じゃない。





「いっつもお前ら教室で食ってんだろ?
 何、南海トラフ地震でも起きんの? やべーな非常持ち出し袋準備しとこ」

「どんな事態だよ! 俺らが屋上来ちゃ悪ぃかよ!?
 てか、お前は相変らずの食欲魔人だな! ヒャハハッ」





ぎくっとしつつ、手元のパンの山に目を落とす。
焼きそばパン(今食ってる分と別にもう一つある)にチョコデニッシュ、コロッケパン、サンドイッチ。
昼休み名物ともいえるの購買戦争を勝ち抜いて手に入れたパン、その数5個。
確かに女子が真昼間から消費する量じゃねえなとは思う。
一応ちゃんと自覚はあるんだよ! よく由衣に「食べすぎ」って白い目で見られるし!

けど別にいーんだよ、部活で体力使うし。
あと、あたし食っても太らねーし。
……って前に言ったら美桜とらんに殴られたなー、何でだろ。
まあとにかく、その点については倉持にとやかく言われる筋合いはないってこと。





「うっせぇ。ドラマーは体力使うんだ、覚えとけバカ持」

「あぁ!? 誰がバカだオイ!」

「お前以外に誰が居るってんだ?」

「くっっそウゼェ!」





ぎゃんぎゃん吼えるそいつを軽くあしらいつつも、何故だろう、ちょっとばかし胸が痛い。
試合に勝って勝負に負けた──っていうのは少し違うかもしれないけど。

ほんの少し視線を外すと、由衣と御幸が仲睦まじく(?)喋りながら飯を食べている。
何喋ってるのかまでは分かんねえけど、少なくとも由衣が嫌がっているような素振りは、ない。
"あの"由衣が、だ。
あたしと喋ってるときすら淡々としてて、ましてやいつもなら御幸を突っぱねてるはずの、由衣が。

─────いいなぁ、

浮かんだ本音は声にならずに、ただ小さく口を動かすに留まる。
正面のそいつを見やって、小さく首を振る。
相変らずの目つきの悪さで、「何だよ」ってガン飛ばすそいつを。



呆れ、或いは、諦観。

何にせよ、何か虚しいような感情をこいつに抱いたのは確かだ。





「(……ホント、バカ持)」





何であたし、こんなやつと友達続けてんだろ。
そう思いながら、溜息をついた。





中学の時からの腐れ縁。



特別仲が良いわけでも、悪いわけでもなく。

顔を付き合わせれば口ゲンカばっかり。

だけどたまに、たまにだけど、お互いがお互いに依存するような時もあり。



気がつけば何となく隣に居る、そういう関係のやつ。





─────『悪友』。





それがこいつ、倉持洋一と、あたしが続けてきた関係の名前。

















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