彼に守ってほしい10のこと【◆A】 | ナノ






「お」

「……あ」

「はよ、高崎」

「……」

「またガン無視!?」

「御幸ほんと学習しねーのな」





朝練を終えて昇降口に入ってきたところで、ばったり高崎と鉢合わせた。
普段ここで会う事がないからラッキー、なんて。
けどとりあえず由衣ちゃん、そんな嫌そうな顔しないで。
俺の防弾ガラスのハート傷ついちゃう。

で、結局何となく三人で一緒に教室に行く流れに。
まあそこは成り行きとしか。
しばらく会話なんて無かったけど、階段を上りかけたところで倉持がふと口を開いた。





「てか高崎、今日は珍しく遅せーのな」

「そう?」

「いつもなら教室居るだろ、この時間」

「……ああ。そう……かもね……」





ふぁあ、と欠伸をして目を擦る高崎。
──やべ、めっちゃ可愛い。
うっかり口にしようものなら高崎の罵声か倉持のタイキックを食らう事になるのは確実だから言わないけど。

それにしても、本当に眠そうな顔してんなー高崎。
何か頭揺れてるし、今すぐ寝ちまってもおかしくないんじゃないか? っていう状態だ。





「ヒャハ、眠そうだな」

「……ん」

「おいおい大丈夫か? 寝不足は良くないぞー」

「……」

「……由衣ちゃーん?」

「……。……………ん、気をつけるよ」

「お、おお」





やたら長い間を空けて答えた高崎に、若干の違和感を覚える。
まあそこまで深く気にするような事でもないかと、それ以上は考えなかった。

教室に入るとすぐ、高崎に気付いた四条がこっちに駆け寄ってくる。
俺と倉持は先に席について、鞄の中身を引き出しに入れていった。
それでふと、思い出す。





「(……あ)」





晩飯の後できっちり洗っておいた弁当箱。
中身の入っていない、この軽さが妙に空しく感じる。
昨日、高崎が作ってくれたおかずやらご飯が入っていた時の、あの重量感が恋しい。
あれはマジで美味かった、思い出すだけで涎が出そうだ。

ちらりと視線を動かす。
四条の席で、眠たげながら楽しげに喋ってる高崎。
……うーん。





「おーい、高崎ー」





少し考えた末に、結局高崎を呼んだ。
邪魔するのは悪いかと思ったけど、やっぱり先に返しておきたかったし。
やや億劫そうにこっちに来た高崎は、「なに」と若干不機嫌そうな顔で言う。
うん、いつも通りだな。





「これ。忘れる前に返しときたくて」

「……ああ」





高崎はそっけなくそれだけ言って、ぱっと俺の手から巾着を取って四条の所に戻ろうとする。
咄嗟にその右腕を掴んで、「待って」と声をかけた。
びっくりしたような顔で振り向いた高崎に、すかさず言葉を続ける。





「ありがとな。すっげぇ美味かった」

「……うん」

「お前絶対いい嫁さんになれるよ。俺が保証する」

「……別に……大袈裟すぎ」





目を見開いたかと思えば、もそもそ呟いてそっぽ向く高崎。
あれ? てっきり『バカ?』とか何とか言われると思ってたけど。
……ひょっとして、





「由衣ちゃん、照れてる?」

「うっさい」

「やっぱり照れて」

「うっさい」





そこでぱっと手を振り払って、今度こそ高崎は四条の所に戻っていってしまった。
だけど、それを見逃す俺じゃない。

──高崎の耳が、真っ赤になってたことを。





「……かーわいっ」





素直じゃないけど、やっぱ可愛いよなぁ。
さっきより多少眠気の抜けたような表情で四条と話している姿を遠目に見ながら、緩んでくる頬を押さえた。
一部始終をばっちり見ていた倉持の、亮さん直伝チョップが炸裂するまであと3秒。

















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