彼に守ってほしい10のこと【◆A】 | ナノ






天気良いし、たまには別の場所で食うかってことで、購買のパン片手に屋上へ向かった俺と倉持。
ドアに手を掛けようとすると、中から誰かの声が聞こえてきた。

んー……女子、か?
流石に何話してるかまでは分かんねえな。




「どした? 御幸」

「や、誰か居るっぽくてさ。どうする?」

「別にいいだろ、離れて食えば」





それもそうか。
ってことで、躊躇い無くドアを開ける。

屋上に居た先客は、二人の女子。
フェンスに背を預けて、何やら談笑中の様子だ。
一人はやたら大量のパンを抱え込んでいるし、もう一人は小さめの弁当を頬張っていて



─────ん?





「……あ、」





思わず声を上げると、それに反応したのか、二人の視線がこっちに向けられる。
俺はというと、そのうちの一人の姿に釘付けだった。

毎日、昼休みになると姿を消してしまう、隣の席のあの子。





「高崎?」

「……どうも」





軽く会釈してくる高崎につられて、俺も軽く頭を下げてみる。
てか、完全に他人行儀じゃん。切ねー。

若干凹んでると、無表情な高崎の隣に居た女子も声を掛けてきた。





「珍しいな、倉持達が屋上なんて」





同じクラスの四条だ。

四条京。
倉持いわく、中学時代からの“悪友”。





「いっつもお前ら教室で食ってんだろ?
 何、南海トラフ地震でも起きんの? やべーな非常持ち出し袋準備しとこ」

「どんな事態だよ! 俺らが屋上来ちゃ悪ぃかよ!?
 てか、お前は相変らずの食欲魔人だな! ヒャハハッ」

「うっせぇ。ドラマーは体力使うんだ、覚えとけバカ持」

「あぁ!? 誰がバカだオイ!」

「お前以外に誰が居るってんだ?」

「くっっそウゼェ!」





そんな調子でぎゃんぎゃんと言い合いを始めた、倉持と四条。
あ、何か痴話ゲンカ始まっちゃった感じ?

まあ、たまに廊下とかで顔つき合わせちゃあ口ゲンカしてるしな、この二人。
仲が良いんだか悪いんだか。
倉持が四条を“悪友”って言うのも、こういうとこから来てるんだろう。多分。
そんな二人はひとまず放っておいて、俺は黙々と弁当を食っている高崎に近付いた。





「隣いい?」

「……好きにすれば」





あれ、意外。
即座に拒否られるかと思ったけど、そうでもないんだな。





「……なに」

「いや、拒否んねーのなと思って」

「じゃあやだ」

「嘘ごめん座らせて」





くっそ、変につつくんじゃなかった……!

怒っちまったかな、という俺の懸念に反して、高崎はそれ以上何も言わない。
黙ってぽんぽんと叩かれたそこ──高崎の隣に腰を下ろして、牛乳パンの袋を開けた。





「……いいの?」

「え?」

「倉持君」





高崎が指差す先では、未だに二人が大舌戦の途中。
……あー。





「まあ、しばらくしないと終わらんだろ。あれは」

「ふーん。じゃあいっか」





別段興味も無さそうに、また弁当を頬張る高崎。
女子の弁当が大体この量なのか、それともこいつが小食なだけなのか。
俺が毎日寮で食ってる分から見ても、高崎の弁当はかなり少ない。
四条はすげぇパン買い込んでんのに、お前それで足りんの? って感じ。

けど、まあ、何だ。

……すっげー美味そう。





「高崎ってさ」

「うん」

「それで半日持つの?」

「持つよ。燃費良いみたいだから、私」

「燃費って」





エコカーかよ、って冗談めかして言ってみる。
そしたら、高崎の雰囲気が心なしか柔らかくなった気がした。
おぉ、これはもしかすると、仲良くなるチャンス?





「それさ、自分で作ってんの?」

「うん」

「毎日?」

「……一応」

「すげえじゃん。早起きとか大変だろ?」

「別に……そんなこと、ないよ」





ごちそうさま、と手を合わせて、そそくさと弁当箱を片付ける高崎。
ありゃ、何か気に障ること言っちまったかな、俺。
居たたまれなくなって一口パンを頬張れば、隣で小さな声がした。





「お母さんに、迷惑かけたくないから」





それは、いつもの、俺を突き放す口調じゃない。
嫌に静かで、淡々としていて、……それでいて、どこか苦しげな。





「(高崎……?)」





世の中、親の負担減らそうとして家事をやるとか、そういうやつは少なくないだろう。
実際俺だって──まあ、単に親父が忙しかっただけだけど──ガキの頃から家の事は色々やってたし。

けど、何で高崎は、こんな苦しそうな顔で、話すんだろう。





「……高崎、」

「ごめん、暗くなるようなとこじゃないよね」

「え、いや」





何で高崎が謝ってんの。
そう言おうとしたけど、何となく黙っといた。
何となくっていうか、ここで俺が何か言ったら、暗いムードが堂々巡りしそうで。

だから、謝らない。





「ところでさ、」





そのかわり、





「それ、今度俺にも作ってくんない?」

「……は?」

「弁当。俺も食ってみてえ」





今、この時だけでいい。
少しだけふざけさせてもらおう、高崎の気がちょっとでも紛れるように。





「……頭湧いた?」

「俺はいつでも真剣です!」

「見えない」

「……左様ですか」





おいおいさっきのちょっと弱々しい由衣ちゃんはどこいった?
めっちゃ辛辣じゃん。
いつも通りで逆に安心するけど。

と、そうこうしてるうちに予鈴が鳴って。
マジかよ昼休みってこんな短かった?
残りのパンをさっさと頬張ると、すぐ近くで高崎が立ち上がる気配がしたかと思えば





「いいよ、別に」





突然降ってきた言葉に、ぱっと顔を上げる。

……え、ちょっとタンマ。





「今なんて、」

「だから、いいよって」

「……いいの?」

「一人分増えようがどうってことないし」

「マジで!?」





うぉおおおおラッキー!
ダメ元だけど頼んでみるもんだなオイ!
くそっ、嬉しすぎる。

教室に帰れば、きっと高崎はいつもの調子に戻ってしまうだろう。
だから畳み掛けるように、俺はあれこれ言葉を続けた。





「っじゃあさ、ハンバーグ入れてくれよ!」

「……了解」

「あ、それかオムライスとか、いやエビフライも捨てがたいな。
 あーっくそ、食いたいモン多すぎる……!」





いざ注文しようと思うと、迷う。
だって、あの高崎が作ってくれるんだぜ?
どうせなら美味いもんいっぱい食わせてもらいたいじゃん。

うーうー唸って考え込んでると、痺れを切らしたのか、高崎が溜息を零した。





「とりあえず、適当に何か作って来ればいいでしょ?」

「……わり、決めらんなくて」

「謝らなくていいのに。それじゃ、月曜日の朝に渡すから」





先戻るね、と高崎はさっさと屋上を出て行ってしまった。
残された俺はといえば、閉まったドアを見つめた後で思わずガッツポーズ。

……これは結構、仲良くなれたんじゃ?
今まで突っぱねられてばっかりだっただけに、これは嬉しい進展だ。
今週に限っては土日なんか来なくていいとか本気で考えた俺はかなり重症だと思う。



まあとりあえず、月曜日の朝を楽しみにしときますか。

だらしなく緩む頬を抑えながら、俺は未だ何やら喋っている倉持達を尻目に屋上を後にした。

















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