短編 | ナノ
愛の狩人とプロポーズ大作戦

相変わらず我が真選組の屯所は今朝から爆音が響き渡り、隊士たちのうめき声が響いていた。しかしながらもうそれも慣れてしまえばこっちのもので、私は何事もなかったかのように朝食を済ませると今日も今日とてせっせとパソコンに向かっていた。


「(なんだかんだ言って一番まともに仕事をしているのは私だと思う。)」


心の中でぼんやりと思ったりしつつ、今日も今日とて勘定方の仕事は数字の睨めっこである。時折、副長の怒号が聞こえることもあったが、極力かかわらぬように努めた。にしても今月始末書が多い。多すぎる。今日はこれで終わってしまうかもしれない、やばい。何しろ今日が期限の書類が未だできていない。時間と同じくらい神経をすり減らしながら仕事をしつつ、時々愚痴ったーでつぶやいたりタイムラインを確認した。だいたい「仕事辛たん・゜・(ノД`)・゜・」や「てゆうかどうせなら副長ごと屯所自体爆発してしまえばいいのにwww」とか、だいたいこんなことをつぶやいた。これがもし副長にバレたならおそらく私の命はないだろう……。「www」とか嘲笑する暇もなく介錯されて首を落とされていると思う。だがしかし愚痴ることこそが今の私の最大の糧であった。そんなスリルを感じながら作業を続け、気がつけば時間はおやつの時間に差し掛かっていた。


「よーっし、休憩。」


ううん、と猫のように唸りながら伸びをするとごろりと畳の上に寝そべった。そしてちょうど手元に転がっていたミンティアを手に取ると一粒口に含んだ。そういえば昼食べてないや、と気がつき、適当に食堂の方で済ませようかなあとぼんやり思っていた矢先。


「名前ちゃん、入っていいかな?」
「どうぞ。」

聞きなれた陽気な声が聞こえたと同時に私は瞬時に起き上がるとすかさず返事を返す。それを確認すると障子の向こう側に見える影が障子を開けた。其処には案の定、ゴリラの姿が見えた。

「ちょっと待って、何ゴリラの姿って、勲はゴリラじゃなくて人間なんですけど!」
「冗談ですよ、ゴリラ局長。てゆうか勝手に心の中読むんじゃねえよこのケツ毛ゴリラ。」
「ちょ、反抗期?反抗期なの名前ちゃん!」
「ところで何の御用ですか、局長。」
「ああ、そうそう。」

そう言いながらポジティブな彼は思い出したように手に持っていた紙袋の中から分厚い雑誌を取り出した。どうやら見て欲しい特集があるのだという。私はその雑誌を手にとってタイトルを改めた。

「……ゼク●イ。」
「名前ちゃん、お妙さんと結構仲いいじゃない?」
「まあ、局長の紹介でお会いしてから何度かお食事する仲となりましたが。」
「……いいなあ名前ちゃんは。まだお妙さんと一月しか経ってないというのもうそんな親密に……!俺もお妙さんとお食事したい、いや、寧ろお妙さんを……!」
「で、結局何がしたいんですかゴリラさん。」
「あれ、今流れでさらりとまたゴリラ呼ばわりされた?ん?」
「ていうかゼク●イて、これを処分しろってことですか?今日は燃えないゴミの日なんで無理ですよ。」
「いやいや処分って……。実は、俺。お妙さんにプロポーズしようと思ってな……。」

こほん、と改まったふうにして局長はそうのたまった後、言っちゃったっ!と気恥かしそうに顔を両手でおおった。私はその一部始終をどこか遠い目で見ていた。いやいやない。絶対にない。

「そこでだ、女の子のことは女の子に聞くのが一番だと思ってな!名前ちゃんに協力して欲しい!」
「いやいや、だいたいプロポーズて。局長、お妙さんと付き合ってもないんじゃ……」

ぺらぺらとゼク●イを捲りながら局長の言う例のプロポーズ特集を開く。其処には華々しく大きくきらびやかなフォントが見える。見出しの下には「イマドキプロポーズ事情は?/一生に一度の晴れ舞台/カッコよくキメる」だとかあーとか謳われている。さすが天然でいろんな意味で純情な彼が食いつきそうな言葉ばかりが並ぶ。彼のようなタイプが一番この商戦にまんまと引っかかるんだろう。

「……ちなみに局長はどういったプランをお考えなんですか?」
「そこなんだよなー。俺はどシンプルに指輪を差し出しながら『結婚してください!』って行ってもいいだろうと思うんだが、最近はもっと派手な感じが好きな女の子も増えてるらしくてな。あ、それもゼク●イの情報なんだけどな!」
「……そうですか。完全にこのゼク●イの商戦に騙されてますよ、局長。」
「え、そうなの!?」
「いや、完全にそうですよ。とりあえずストーカーをやめるところから始めましょう。話はそれからです。」
「な、いきなりハードルが高いなあ……。」
「いや、プロポーズするよりもはるかに簡単だと思うんですけど。」
「しかしなあ、俺は愛の狩人だし……。」
「……めんどくせえ。マジでめんどくせえ。そもそも今からストーカーやめたって正直可能性なんて皆無だし手遅れだと思いますが、まあ、何もしないよりマシでしょう。」
「ちょ、名前ちゃん?前半のセリフは何?あと後半のセリフも辛辣なんですけど?」
「あら、心の声が。グチートしようとしたセリフが思わず口から溢れ出てしまったようです。すみません。」
「あれ、雨降ってるのかな?頬に一筋の雫が……。」
「やだなあ、ここ室内ですよ?ゴリラ局長。」


そもそも、ストーカーやプロポーズ云々言う前に仕事しましょう。


2013.05.14.
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