短編 | ナノ
何だかんだ過保護なリヴァイさん

テレビはつけっぱなしだった。お風呂には入ったけど歯を磨いた記憶はない。テーブルの上にはスナック菓子の空き袋と、買ってきたドーナツの空箱、いちごみるくの牛乳パックが転がっていて、足元にはノンノとジャンプが乱雑に置かれていている。私の周りは驚く程に汚いのに、それ以外の場所は非の打ち所がないほど清潔で、薄型のテレビの画面は誇りはひとつ見当たらないほど綺麗なピカピカで、面白くないお笑い番組をたれながしている。黒と白でまとめられた家具は全部私が選んでいない。ソファの上にゴロンと転がれば革の冷たい独特の肌触りが体を包み込んだ。電気をつけない部屋は存外暗い。つまらんテレビの音は広いリビングに寂しく響いた。スマホを開く。メールが二件。どれもくだらない迷惑メールで、ロトsixが当たるとかなんだとか。心底どうでもいい。あああああ。声を出せば冷たい静かなリビングにこだますることなく溶けていく。スマホをいじる。もう午前零時を過ぎている。


「もしもし、」
『……ああ。まだ起きてたのか。ガキはさっさとクソして寝とけ。』
「まだ帰らないんですか。」
『今夜は接待だっつったろうが。もう少しで引き上げるがな。』
がやがや。賑やかそうなお店の雰囲気が電話越しに聞こえる。目を閉じて、想像する。街のきらびやかなフィラメント。高層ビルの一番てっぺんで、ピコピコ光る赤、街頭の無数の白、青。コンクリートの上にはたくさんの革靴とピンヒール。ディスコの下品な大きな音楽と、クラブ、バーの落ち着いた音楽、ジャズ。不思議な色をしたカクテル、甘ったるい香水と、女性の声。電話越しに聞こえる。リヴァイさんを呼ぶ声。
『用がねえなら』
「リヴァイさん、」
さみしいよ。ぽたりと生暖かい雫が、冷えた頬に伝って、黒い革のソファに堕ちる。声が震えた気がした。それからすぐに、『少し待ってろ』、という低い声と、女の人の静止を振り切る苛立った声が耳に届く。それれが聞こえたとたん、安心したように電源ボタンを押した。思わずふ、と笑って、手のひらで頬の雫を拭う。きっと遅くともあと二十分もないだろう。さあ、彼が来る前に掃除を済ませなければ。


2013.10.18.
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