短編 | ナノ
犬系男子ベルトルトとわんにゃん

みょうじさん、というらしい。放課後に如雨露で教室の花に水を上げているのを結構見かける。彼女は個性豊かでうるさいクラスメートの中でも物静かで、僕と同じ気質のように思えて、学期が始まった当初は少なからず好感を持っていた。彼女のカラスみたいな真っ黒な長髪と、猫のような黒い目は地味だと陰で言われているのを耳にしたことがあったが、僕はむしろ彼女の持ち物で美しいもののひとつであると考えていた。小柄で、黒い彼女はまるで、

「……猫。」
「え。」

彼女はすこしだけ驚いたように顔を僕に向けた。背の高い僕を見ると、自然と僕を見上げる形になる。それから彼女はそこかしこを見回した。僕はあわてて、違うんだと訂正すれば再び不思議そうに僕を見上げた。黒い瞳に僕の困惑した瞳が小さく見える。廊下の空いた窓から西の少し冷たい風が吹いて、窓を揺らして、幽かに理科室の薬品の匂いも混じっている。次は選択科目の授業だ。今学期は化学を取ったのだが、どうにも理数系は人気があまりなく、特にこの教科は難しいのか本当に数える程しかこの授業にはいないのだ。現に、男子はともかく、女子は一人や二人ぐらいで、彼女もその中のひとりであった。同じクラスである彼女とは自然と、話す機会がこの授業では多い。

「ここにはいないよ。」
「そう、だよね。校内だもんね。」
「うん。その、なんていうか、僕の家の近所に居る黒猫に似てるなって。」
「黒猫?」
「うん。みょうじさんが……。」

僕がそういえば彼女は怪訝そうに眉をひそめた。僕はそれに思わずしゃべりすぎたかなとか、さすがに失礼だったかな、とかいろいろ考えたが、彼女の横顔を見るかぎり、別に嫌悪を抱いているようには見えなかったので少しだけ安堵した。でもこの空気はいささか問題があると思って、口下手ながらも話を進めなければと思った。僕はあまり喋る方ではないけれど、彼女もそれは同じだ。普段ならば相手に任せっきりだけど、今回ばかりは自分がはなさねばどうにもならないだろうと思った。

「ごめん……犬派だった?」
「えっ」

彼女は驚いた表情を浮かべて、やがて肩を小さく震わせたので、今度は僕が驚く番となった。

「ううん、猫好きだよ。犬も好きだけど。」
「そっか。」
「でも猫って言われたのは初めて。」
「本当?僕は猫みたいだなって、ずっと思ってたよ。」
「私髪の毛真っ黒だもんね。」
「うん、似合うよ。」
「そうかな。」

彼女がまるで自分を卑下するような物言いをするのですかさずそういえば、彼女はまた少しだけ驚いたけど、今度は愛想笑いではない花のような笑を見せた。ああ、笑うんだな、と当たり前のことをぼんやり思った。

「フーバー君は、犬っぽいよね。」
「犬?」
「うん。大型犬。おとなしいけど、ご主人様にはすごく従順そうな。」
「そう、かな。」
「うん。」

もふもふのね、と付け加えて彼女はまた笑った。おとなしいかと思えば案外よく笑うし、かと思えばビクビク方を震わせたり、ころころ感情が変わる。彼女の横顔を見て、やっぱりあの黒猫に似てるなあって思った。

2014.02.15.
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